Eno.29からのお手紙

はりこ さま


私の思い出、驚きましたか?
花や果物の香水をつけて、においを色濃く残したりすることが人間の間では流行っているのです。
それをまねして、少し便箋に仕掛けを施していました。
あなたの好きな果物だったなら、うれしいです。私もこの思い出を染み込ませたかいがあるというもの。

赤青黄色、それから桃色に橙色。
私のお屋敷では、春の中庭で並ぶために育てられる花です。
球根から育てるところしか見たことはありませんが……種からなら、ほかの花々とも勝手が似ていそうです。

私は妖精であると共に、優秀な召使いですから。
この名に懸けて、このチューリップを立派に育てあげてみせましょう。
毎日の水やりも、肥料を与えて剪定を施すこともばっちり習っていますからね。

そうしたら、その花の蜜を使ったお茶でも淹れてみようかしら。
その時は、あなたにも招待状を送ります。ぜひとも楽しみにしていてください。


偶然の出会いに感謝します。あなたと文通ができて、楽しい日々になりました。
あなたが思っているのと同じくらい、私もあなたに素敵なことを教えてもらいましたよ。
新たな料理や春のこと、それから何よりうつくしい花のこと。
どれも輝いていて、これからの召使いの働きに新しい彩りを与えてくれます。

こうして書いていると、なんだかさみしくなってしまいますね。
それでも、長く生きていればお互い機が重なることもあるでしょう。
私もあなたに倣って、この文言を書くことにします。


それでは、お元気で。


妖精シルキーのうちのひとり より