RECORD

Eno.276 リベレの記録

私闘:220



格闘武器での大会が終わった後の話だった。
モルドさんから、素手とナックルダスターでもう一度対戦をしようと持ち掛けられたのだ。
その時は当然、僕は素手というのが徒手空拳だと思っていたし、
衣装の話もあったから、大会での試合とは別でというだけの話かと思っていた。

前の闘技の季節から、二年近く経っている。
あれから、僕にも彼にも、色々があった。
モルドさんはまた、修行と賞金を稼ぎにこちらへ滞在してくれている。
ただの友と言うには、親しい関係であるのかもしれない。

だけど、僕はまだ、
彼のことを本当に理解していたわけではなかったみたいだ。

手袋を取って、露わになった鋭い爪。
彼が生まれ持っていた、小さな武器。
彼がちいさな誇りとしていた吸血鬼の証。
故郷に戻ってからは、もう使われないもの。



でも、少しだけ羨ましいとも思った。
僕の身体はほとんど、アバター由来のものだから。
日に焼けた肌の色も、癖の少ない茶髪も、
男にも見える肩や腰も、足のサイズも、てのひらも。
自分で選んだものだけれど、
自分自身のものではない。

手を取って引き上げようとした時の、
こちらを傷つけまいとする慎重さ。
その優しさは、どう変わってもモルドさんの美点だ。

だから、あの爪がもう伸ばされることがなくたって。
彼は彼のまま、かっこいい友であってくれるんだろう。
……それに、戦うためよりも。
繋いだり、抱いたりするために使う手の方が、
きっとずっと、もっとかっこいい。