RECORD

Eno.160 カイ・トワイライトの記録

【0.死神は地上へ足を進める】


『お前はあまりにも世間を知らな過ぎるから、
 地上へ行って様々なものを見てこい』



 命令が下されたのは少し前のこと。
 冥界。万物の終焉たる黄昏の主は、
 息子のことがとても大切だ。

 白い髪に赤い瞳、尖った耳。
 骨の弓を背負った青年は、
 はいと素直に答えた。

「……父上の命じるままに」


「しかし、お前だけでは不安だ。
 ……ネヴィーレン」


「…………はい」


 棺を背負った影ひとつ。
 光のない青紫が、黄昏の主を見ていた。

「お前ならば地上に詳しいだろう。
 カイについてやってくれ」


「……仰せの通りに」


 斯くしてふたりは、旅立った。
 冥界より、地上へと。

  ◇

「…………カイ」


「先に言っておくんだが……。
 一度見聞きしたことだけを、
 物事の全てだと思うなよ」


「……どういうことだ?」


 意図が分からず、カイは首を傾げた。
 自分よりも背の低い友人を見ている。

「……物事には様々な面がある。
 ある人にとっての正義は、
 別の人から見たら悪かも知れない」


「君にとって分かりやすい例を挙げようか、カイ。
 あのクソッタレの冥王は、
 世間から見たらどのような扱いだ?」


「…………」
「公正にして厳格なる冥界の王だ。
 ネヴィーレンの話を聞いていると、
 実態は違うようだが」


 つまりは、と首を捻っている。

「そのような事例もあるから、
 ひとつのことを信じ過ぎるなと?
 様々な面で物事を見よと、
 ネヴィーレンは言いたいのか」


 そういうことだと、ネヴィーレンが頷いた。

「地上は様々な善意と悪意に満ちている。
 冥界みたいに穏やかではない。
 目先の情報だけに惑わされるなよ。
 様々な情報を並べて、自分の頭で考えろ」


「……言いたいのはそれだけだ」


「…………」


「……ネヴィーレンは、本当に、
 様々な経験をしてきたんだな」


「…………さぁね」


 ネヴィーレンが棺に目を遣る。
 其処に秘められているモノを、
 カイは知っている。

「……さて、そろそろ出掛けようか。
 扉はカイが開けるな?
 地上に着いたら僕は口を出すのを控えるから、
 君の頭で色々を考えることだね」


「…………善処する」


 頷き、宙に手を伸ばす。
 冥界と地上は本来、魂以外の存在の通行が出来ない。

 されどカイは黄昏の主の、
 ネヴィーレンは冥王の血を引く半神だ。
 特別な生まれである、ふたりなら。

 伸ばされた手の先、白く輝く扉が現れた。
 ネヴィーレンがついて来てることなんて確認せず、
 カイは自分の意思で扉を開き、先へ────

 そして。

「フェストリア……
 フェイ…………」


「お祭り??」


「とりあえずボスを殴れば良いのか???」


 頼りになる相棒のネヴィーレンは、
 はぐれたのか居ないみたいだ。
 なら、世間知らずでも、ひとりで頑張るしかない。

 外の世界は、どんなものだろうか?
 死神の冒険は、不思議な祭典は、
 まだ始まったばかりだ。

【To be continued……】