Ino.49 無名の島
浜辺に流れ着いた脱出ポッド。それを追うように空から落ちる星。目覚めぬ主のため、猫の少女は脱出を目指す。
STATS
2人 / 人数
ハードコア / 難易度
ラージ / 広さ
OVERVIEW
一人用。
チャットとメッセージ
ゲーム中はチャットはALLと同じ表示がされ、またメッセージは公開されません。
エピローグ期間に入り次第チャットは通常公開され、メッセージはゲーム終了後に通常公開されます。
嵐に閉じ込められるのもこれで4度目、
あらゆる体験を引き継いだ身には慣れたものだった。
そこに慢心があったのか、嵐の雨水を溜めようとした際に
飛来物に当たってしまった。
もともと怪我の一つもなかったおかげで大事には至らなかったが、
一度怪我をしていまえばここではそう簡単に治らない。
クエリ5の最後もそう、油断は禁物だ。
「できた。……次」
大量の木材を集めて完成した船は作業場ではとても大きく見えた。
それでも海に出れば小船と言われる程度、外洋ではとても保たない。
設計図を見れば、今使ったよりさらに多くの量の木材が
必要になることは明白だった。
立ち止まっている暇はない。
「……あった」
前のクエリが落ちて重傷を負った場所のすぐ奥に
彼女が求めていたものを見つけた。香辛料だ。
これひとつでは足りないかもしれないが、
少なくとも作業は先に進められる。
確かに前の自分は失敗したかもしれない。
でも、その先を引き継ぐ自分がいるのだから、
それは決して無駄ではない。
最初のクエリの死も、クエリ2の犠牲も、3も4も5も。
自分はずっと繋がっている。
すべてはただ1人のマスターのために。
例外を放置して面倒を起こすのは得策ではない。
けれど、それを判断するのは自分ではなかった。
主が眠る今、できるのはただ脱出という目的のための行動。
それきり先の自分への興味などなくしたように活動を始める。
動きを止めた少女と全く同じように。
ふと、表情が変わる。
「……死んで、ない?」
機能は確かに停止しているし酷く損傷もしている。
けれどその生命活動は完全に終わっているわけではなさそうだった。
通常、自分たちは戦場で死ぬ。
たいていは死体も残らないほど破壊されて。
だからこんなケースは"自分たち"の想定にない。
同時に2人のク・エリが存在するなんて――
拠点の中、動かない少女と全く同じ姿が現れた。
もう一人の少女は角に座り込む少女の前に膝をつき、
その持ち物をひとつひとつ取り出すと、
自分のものとしてその身の同じところにおさめていった。
島に向けて再び閃光が走った。
輝きの色も全く同じに、砂浜のポッドのそば、
流されずに残った先の流星の残骸の、その上に。
黒い殻を破り立ち上がるのもまた、全く同じその姿で。
最後の力を振り絞って作業台の前に立った。
嵐の後に船で拾った不思議な石を懐から取り出すと、
端切れを縫い合わせた巾着袋の中にそっとおさめた。
それから離島の謎の花を薬にしたり、
真水や生理食塩水を作ったり、
少しでも次の助けになるであろう細々とした作業を片付ける。
ほどなく指先がまともに動かなくなったと見るや、
ふらつきながら拠点の角に座り込み耳を天に向ける。
そうしてそのまま、じっと動かなくなった。
最後に漂着船を探索していたところで、
床が抜け落ちて船底に叩きつけられてしまった。
もう少し当たりどころが悪ければ帰還すら叶わなかったろう。
瀕死でも活動限界でも戻らねばならなかった。
我が身はともかく、所持している物資は貴重なのだから。
嵐に破壊された拠点と蒸留装置を修復する。
体がだんだんと動きを鈍らせていくのが感じられた。
嵐はきっと森の罠も破壊しているだろう。
それを直したらまた離島で探索をしよう。
完全に静止する前に、あともう少しだけ。
目標は遠く、自分の手の届くところにはない。
それでも自分がやり遂げねばならない。
だから少女は時空を超えて信号を送る。
活動が停止した後に来るだろう新たな自分に
己が全てを受け継がせるために。
これまでに手に入れたもの、作製したもの、設置したもの。
これから着手すべき仕事、脱出までのステップ。
嵐で身動きが取れない時間を利用して、
自身の知る情報を改めて整理する。
まずは救命ボートを小船に改造する。
不足しているのは木材とプラ材、そして塩漬けの肉。
塩漬け肉を作るための香辛料を
なんとしても見つけなければならない。
おそらくそれはあの離島と漂着船に手がかりがある。
それが達成されても終わりではない。
設計図をもとに更なる改良が必要だ。
詳細は不明だが、さらに多くの素材を
使うことになるだろう。
また、安全な航海のためには人間用の救命装備も
別途準備することになる。
その準備も並行して進めるべきだ。
3度目の嵐の音は遠かった。
木の拠点の要所にレンガの壁を建てた成果だろう。
横殴りの雨を跳ね返し、内部は暖かく静かに守られていた。
主の眠るポッドはここ以上に快適であろうが、
中にいたままで脱出のために動けるわけもない。
だからそれは自分の、ク・エリの役目だ。
そして5番目のク・エリ――クエリ5は、
その役目の限界が近いことを感じていた。