Eno.105 白飛 燕

サイコロトーク:恋バナ

「……丁さんの話が面白かっただけに、いい話ができるか心配ですが。
 僕の学校は男子高で、現在進行系の恋バナをしようとすると
 そっちの方にいってしまいそうなので……僕も過去の話を。
 小学校、低学年のときくらいの話です」

「幼馴染、みたいな存在がいたんですよ。
 当時はなんとも思っていなくて、なんだったらちょっと
 うざったいなんて感じて距離を取ろうとしていたくらい
 なんですが。
 それでも彼女は、僕の何が面白かったのか毎日積極的に
 話しかけてきて、『今日の服どう思う』とか
 『新しい髪留めきれいでしょ』とか。
 今思えばずいぶんませた子だったと思いますし……
 自惚れでなければ、まあそういうことだったんだろうな
 とも思います」

「ある日、その子が珍しくしおらしい様子でいました。
 いつもは元気すぎるくらい元気だったので、それを変に思って
 僕は『どうしたの』と訊ねたんです」

「『引っ越すことになった』『遠いところでもう会えない』と。
 泣きそうな声でそう言っていました。
 そのときの僕は、泣くような理由がさっぱりわからなくて
 おろおろして……訳もわからないまま、とりあえず慰めようと
 頭を撫でたんです」

「ぱっ、と手を取られて。泣きそうな顔でへら、と笑って。
 そのまま唇を寄せられて、……キスを、されました」

「……その後、その子は言ったとおりに引っ越していって、
 僕はよくわからない、ぼんやりした悲しい夢のような気持ちで
 その後数日を過ごしていました。
 ……さて、ここまでは寂しい話で。
 ここからはちょっとした蛇足です」

「その後数年経って、僕は中学校に進学していました。
 他に浮かれたような話は無かったので、当時もそのことを
 度々思い出してはなんとも言えない気分になっていました」

「ある日、両親が言いました。
 『父の転勤で引っ越すことになった』と。
 詳しく聞けば、その先はなんという偶然か、
 あの子が引っ越していった先でした。
 僕は浮かれたような、あの日の夢の続きが見られるような気分で
 その日を迎えました」

「引っ越した先で、僕は当てもなく街をぶらつきました。
 そうしていればあの子に会えるかもしれないなんて、
 まあ馬鹿な期待ですけれど。
 ……そうして、案外早くに僕は彼女を見つけました」

「別の男と腕を組んで歩いているあの子を。
 ……兄や弟はいないという話でしたし、まあ、そういうことです。
 その日は早々に帰宅して、一日中もやもやした気持ちで
 過ごしました」

「おわり」