2:曇天の快晴
「えっと、多分このあたりからのはずだよ」
手にした紙に記された魔法の反応を見て、彼らは立ち止まる。
勇者エルディスと剣士ディータは、クエストをこなす為に街道を進んできた。
魔王を倒す神託の勇者が何故ギルドのクエストをこなそうとしているのか。理由は二つ。
「旅資金」と、「こなさなければ進めない」からだった。
実は資金面は、少しばかりピンチだったのだ。なぜなら、支援金なぞ雀の涙しか受け取っていなかったからだ。
村に訪れた姫から渡されたのは、金貨五枚と銀貨三十枚――――武器防具を整えて、薬草や魔法薬を少し買えば、城下街の普通の宿に一週間も滞在すればすっからかんになってしまう量だった。
決して少なくはないが、世界を救う勇者に与えるにはささやかにもほどがある量だった。
そして、なによりこのクエストは、「こなさなければ進めない」ものだった。
「一応、もう一度確認しておくがいい。勇者様ははじめてなんだろう?」
「うん。えーっと……」
紙に書かれた大題は、「街道に巣食う魔物の群れの掃討」。それも。
「瘴気のウェアウルフ……って?」
首を傾げたエルディスに、ディータは思わずずっこけた。
「おいおい、聞いてないのか?」
「うん、初耳。瘴気って?」
ディータは頭を抑えてから、息を吐いた。
「あー、説明してやろうじゃないか。よく聞けよ?瘴気ってのは――――」
「瘴気」とは、魔王の力である。
魔王は配下の魔物に「瘴気」を与え、強くして世界に放っている。そもそも一般人では追い払うのがやっとの魔物が強くなる。これだけでも厄介だ。
しかし、「瘴気」の真髄はそこではない。
「瘴気」は人間を弱める。それすなわち、「瘴気」のある地では並の人間ではまともに暮らすことができなくなること。
「瘴気の」魔物は、自らの縄張りを広げるように周囲を瘴気で汚染していく。
「だからこそ、瘴気が広がりきる前に、ある程度瘴気に充てられても耐えられる者が対応しなければならない。分かったか?」
「なるほど。けど、それなら君ほどでなくても、強い人は他にもいるんじゃ……?」
それは、とディータが口を開こうとした瞬間だった。ひゅ、と音を立て、二人の間を何かがかすめた。
「グガルルルル……」
地面に二つ脚でブレーキをかけながら唸る。緑の毛並みの獣人が居た。
「……お出まし、だな」
ざわざわと揺れる木々を曲としながら、二人は武器を抜いた。
静寂が続く、ことはなく。
真っ先に動いたのはディータだった。
「犬っころが!このディータ様が切り伏せる!」
「あ、ちょっと?!」
エルディスの声も剣の啼く声に蹴散らされ、届かない。
ウェアウルフが寸前でやっと回避したほどの高速の剣。それは二つ名に違わず、街道を照らす快晴の空すら切り伏せることができそうな鋭さだった。
高速の、攻めの剣。それは高い身体能力を誇る――――しかもそれが強化されているであろう――――ウェアウルフの回避がギリギリになるほどのものだった。
一見。優勢。ディータは口角を釣り上げた。
(勇者様は動けていない。やっぱり俺の方が強くてふさわしい!これなら――――)
考え事をする余裕すら見せた。遊びの余裕すら出した。
それが慢心とは知らずに。
「ディータ!!」
その声が耳に届いたのは、不幸中の幸いだっただろう。目線を動かしたその三寸先に、赤いウェアウルフの爪が迫っていた。
「っぐあ!」
即座に体をひねり、致命傷を避けた。
けども半身に爪が、それも瘴気にまみれたそれが入る。ゴロゴロと固い地面を転げた。
おぞましい何かが入り込む感覚がディータを襲い、強烈な吐き気が込み上げてきた。
ちら、とエルディスの方を見れば、小柄な灰色のウェアウルフたち相手に防戦一方だった。
「こいつら、隠れてたんだ!ディータ!」
もだえるディータにとどめを刺そうと、緑と赤のウェアウルフが迫る光景が見えた。
エルディスは悩む間もはさまずに、呪文を口にした。
「シルフカーテン!」
土煙を巻き上げる風が吹く。
ウェアウルフ達は思わず目をつむると、そこに人間の姿はなかった。
快晴は雲を纏い始めていた。
手にした紙に記された魔法の反応を見て、彼らは立ち止まる。
勇者エルディスと剣士ディータは、クエストをこなす為に街道を進んできた。
魔王を倒す神託の勇者が何故ギルドのクエストをこなそうとしているのか。理由は二つ。
「旅資金」と、「こなさなければ進めない」からだった。
実は資金面は、少しばかりピンチだったのだ。なぜなら、支援金なぞ雀の涙しか受け取っていなかったからだ。
村に訪れた姫から渡されたのは、金貨五枚と銀貨三十枚――――武器防具を整えて、薬草や魔法薬を少し買えば、城下街の普通の宿に一週間も滞在すればすっからかんになってしまう量だった。
決して少なくはないが、世界を救う勇者に与えるにはささやかにもほどがある量だった。
そして、なによりこのクエストは、「こなさなければ進めない」ものだった。
「一応、もう一度確認しておくがいい。勇者様ははじめてなんだろう?」
「うん。えーっと……」
紙に書かれた大題は、「街道に巣食う魔物の群れの掃討」。それも。
「瘴気のウェアウルフ……って?」
首を傾げたエルディスに、ディータは思わずずっこけた。
「おいおい、聞いてないのか?」
「うん、初耳。瘴気って?」
ディータは頭を抑えてから、息を吐いた。
「あー、説明してやろうじゃないか。よく聞けよ?瘴気ってのは――――」
「瘴気」とは、魔王の力である。
魔王は配下の魔物に「瘴気」を与え、強くして世界に放っている。そもそも一般人では追い払うのがやっとの魔物が強くなる。これだけでも厄介だ。
しかし、「瘴気」の真髄はそこではない。
「瘴気」は人間を弱める。それすなわち、「瘴気」のある地では並の人間ではまともに暮らすことができなくなること。
「瘴気の」魔物は、自らの縄張りを広げるように周囲を瘴気で汚染していく。
「だからこそ、瘴気が広がりきる前に、ある程度瘴気に充てられても耐えられる者が対応しなければならない。分かったか?」
「なるほど。けど、それなら君ほどでなくても、強い人は他にもいるんじゃ……?」
それは、とディータが口を開こうとした瞬間だった。ひゅ、と音を立て、二人の間を何かがかすめた。
「グガルルルル……」
地面に二つ脚でブレーキをかけながら唸る。緑の毛並みの獣人が居た。
「……お出まし、だな」
ざわざわと揺れる木々を曲としながら、二人は武器を抜いた。
静寂が続く、ことはなく。
真っ先に動いたのはディータだった。
「犬っころが!このディータ様が切り伏せる!」
「あ、ちょっと?!」
エルディスの声も剣の啼く声に蹴散らされ、届かない。
ウェアウルフが寸前でやっと回避したほどの高速の剣。それは二つ名に違わず、街道を照らす快晴の空すら切り伏せることができそうな鋭さだった。
高速の、攻めの剣。それは高い身体能力を誇る――――しかもそれが強化されているであろう――――ウェアウルフの回避がギリギリになるほどのものだった。
一見。優勢。ディータは口角を釣り上げた。
(勇者様は動けていない。やっぱり俺の方が強くてふさわしい!これなら――――)
考え事をする余裕すら見せた。遊びの余裕すら出した。
それが慢心とは知らずに。
「ディータ!!」
その声が耳に届いたのは、不幸中の幸いだっただろう。目線を動かしたその三寸先に、赤いウェアウルフの爪が迫っていた。
「っぐあ!」
即座に体をひねり、致命傷を避けた。
けども半身に爪が、それも瘴気にまみれたそれが入る。ゴロゴロと固い地面を転げた。
おぞましい何かが入り込む感覚がディータを襲い、強烈な吐き気が込み上げてきた。
ちら、とエルディスの方を見れば、小柄な灰色のウェアウルフたち相手に防戦一方だった。
「こいつら、隠れてたんだ!ディータ!」
もだえるディータにとどめを刺そうと、緑と赤のウェアウルフが迫る光景が見えた。
エルディスは悩む間もはさまずに、呪文を口にした。
「シルフカーテン!」
土煙を巻き上げる風が吹く。
ウェアウルフ達は思わず目をつむると、そこに人間の姿はなかった。
快晴は雲を纏い始めていた。