Eno.241 平木 夕真の日記

遭難者 ③

《8年前 9月の終わり 深夜》

電波塔にたどり着いた時には既に真夜中だった。

この子の身体を動かして、日没後に移動をする事は分かっていたので
事前準備はしていたが、流石に疲れはある。

地面が凹んでいる所から金網フェンスをくぐり抜けて、回収地点に投下されていた少量の物資を拾う。

(地球上に残しちゃいけないのは分かるけど、ほんと最低限ね……)

エネルギーを補給して、服を乾かして、迎えか来るまでの1日分の人避けを使う。
それでもう物資はほぼ空。
水筒のお茶を温め直す程度のエネルギーが残っていた程度だった。

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塔の雨風がしのげる場所で、温かいお茶を口にして一息つく。

(寝る前にちょっとやっとこうか……)

落ち着いた所で彼女の記憶の同調を深い所まで行う。
明日、このユマの身体を引き渡したらもう【わたし】の仕事ではないのだが、他にすることも無し。


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「私も水筒冷たいの入れてー。」

『山は寒いから、持っておくのは温かいのにしなさい。
 冷たいのが欲しかったら分けてあげるから。』

「山でも動いたら暑いし」

『動けない時は寒いからね。そういう時の備えでもあるのよ。』

お茶の影響か、記憶の同調はここから始まった。
今日の未明か、それとももう日が変わって昨日の未明の記憶か。


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その後も彼女の"温かい"記憶は続いた。

故郷があり、両親がいて、学校に行き、友達がいて、愛されていた。
この日の登山も楽しみにしていたようだ。
あと、帰ってから録画で見るつもりだったアヒルバトラーも。





今はこれくらいでいいか、と切り上げようとする際に

ふと目からこぼれる雫があった。


(修復の際に、涙腺内に残っていたか。)


【わたし】が流したものだとは、認めたくなかった。