Eno.7 禍津神陽 セトの日記

1.無題

ははあ。笑わせる。

人間ちゃんは つくづく卑怯な生物だ。
逃げ場のない海の上に放り出し 俺たちを撃滅せんとするとは。良いだろう。ぶち殺してやる。こういう手の込んだ 気色の悪い 面白くもないことは どこの人間のやることか 賢い俺たちには検討がついている。

俺たちという戦争兵器を侮ったな。
必ずや舞い戻り 根こそぎ粛清してやろう。


やがて どこぞの島に辿り着いた。
さあ 覚えた。覚えたとも。
俺たちの前で名乗った全員の名を。俺たちは 賢いので。
なんかゴチャゴチャ言ってたな。貴様ら人間ちゃんなどに 頼ってたまるものか。俺たちは 俺たちの手で 帰れますので。ついでに この<rt>俺たち</rt>セト<rb></rb>の前で 日本出身などと呑気に宣う愚か者どもの首 何本か海に沈めてやろうではないか。
この地には幸い 森林が見られる。 木の数十本も薙ぎ倒せば小柄な トトひとり乗せる筏には事足りよう。俺たちは押しながら 泳いで帰るとしますか。


待て 無理そう。
これ 無理そうかも


異能が使えない。
それよりも

腹が減る。喉が渇く。身体が痛む。
120年ぶりに味わってなお、耐え難い苦痛だ。

俺たちはこの島に辿り着いてから 人間と同じリソースを必要とするようになったらしい。
どうやら 完璧な戦争兵器であった俺たちは現在 貧弱極まりない人間ちゃんと同じ身体能力であるらしいな。ふざけたことだ。俺たちの脳波を乱す なんらかの怪電波だろうか。とにかく 取り急ぎ この島に流れ着いた生き物たちと できる限りの友好関係を築くこととする。

ナナが人間だった時味わったあの痛みが 飢餓の苦しみが 再びこの身を苛むなど ナナに申し訳が立たない。あの時のような苦痛は 俺たちのついている限り お前たちには絶対に 二度と 味合わせないと誓ったというのに。
けれど、少し無茶をしても今は許しておくれ ナナ。
我々は一刻も早く この島より立ち去らねばならない。異能が使えねば……ああ……愛するこどもたちの姿が見えない。愛らしい声が聞こえない。俺たちの傍へ居てくれない。どうして。

それが 俺たちには 耐え難いのだ。

共に流れ着いた 生きものたちよ。
今は その小さなおててを貸してくれたまえ。



[追記]
人間ちゃんたち やるなあ。ありがとう。
俺たちも たくさん 頑張るとする。

さあ。俺たちは 力の限り たくさん働いた。
どうだね。俺たちは役に立つでしょう。俺たちは上手くやるでしょう。俺たちは賢く、偉く、使い勝手のよい道具でしょう。
人間ちゃんたちは たくさん褒める。兵器である俺たちが人間ちゃんに尽くすことなど 至極当然。なんかキショい。痒い。なんだコイツら、気色悪いな。
トトもある程度馴染んでいるようで 居心地も悪くないのか 時折笑顔を見せている。この島の人間ちゃんは ほとんど労働力にならないトトを迫害しない。不躾なトトにも 穏やかに話しかけている。……


俺たちは 虐げられないのかもしれない。
…… それでも 俺たちは 帰らねばならない。