火種
ヤヤウィクが背中に火を載せて歩いている。
あれで毛が焼けたりしないのが不思議だ。あいつの本性は金属だから、火傷しないことはまだ理解出来るけど。
どこかですっ転んで火を消されても困るし、後でもうちょっとどうにかしてやろう。
ランプみたいな容れ物があれば、使うにも移動するにも困らないだろうから。
自分で持つことが出来ればいいが、悔しいことにそれが出来ないことはわかっていた。
本当に腹立たしい。火が苦手な魔術師なんて、自分じゃなかったら腹を抱えて笑っているところだ。
しかも僕には全く何の理由もない、どうしようもない習性のせいで、そんなことになっているのだから。
本当に、本当に腹立たしい。
「……火の精は燃えよ、水の精はうねれ、風の精は消えよ、土の精は勤しめ」
ぽつり、と。ふと思い至って、ブランクスは小さな声で呟いた。
ほとんど口の中で呟いたに過ぎなかったのだが、耳聡い獣には聞こえていたらしい。
異形の証でもあるような、四つの耳がぴくりと動いて、黄色い目がこちらを見た。
『なに? なんか言ったか?』
「いや、なんでもない」
『えー、なんだよ。気になるだろ』
「なんでもないって。……単なるおまじないみたいなものだよ」
『ふうん?』
そう、単なる他愛無い、意味があるのかどうかもわからない【御呪い】だ。
この島の――この世界のことは全くわからないから、同じ法則が成り立つのかどうかもわからない。
四大の精霊は果たして存在するのだろうか。
もしいるのだとしたら、この大自然の中で、少しくらい力を貸してくれればいいのだが……。
そこまで考えて、ブランクスはくっと喉を鳴らして笑った。
いや、やめよう。自分以外の未知のものに縋るほど、まだ落ちぶれてはいないはずだ。
自分の力と知識があれば、こんな島でも生き抜くことは容易い。
その自負があるから、だから僕は今でも、あの『迷宮』でずっと――
『おーい、聞いてるか? ブランクス!
そのまま行くと転ぶぞ!』
そう叫ぶヤヤウィクの声が少し離れたところから聞こえた瞬間、ブランクスは木の根に足を取られて慌てて体を支えた。
『森の中でぼーっとするなよ。危ないぞ』
「……そうだな」
木の幹に片手をついて、小さく溜息をつく。確かにその通りだ。
少しだけ前言を改める。そう容易いことではないかもしれない。
慎重に、気を抜くことなく、この世界を生き抜いていくことにしよう。
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