Eno.1017 エララ・C・ビスケットの日記

◾️ 調査記録【ビスケット家:長女2】

 
 

「⋯⋯問診は以上となります。
 お疲れ様でした。検診結果は同じくご自宅へ輸送しますね。」

「ええ、お待ちしております。
 先生もご苦労様。」



 柔らかい女性の声が二つ。
 一人は医師で、もう一人は患者だろう。


「エララさん、辛くはありませんか?」

「大きな声では言えませんが⋯
 あなたがご家族から不当な扱いを受けていると
 噂を耳にしています。」

「あら、まぁ うふふ。」



 患者の声はたかが噂だと笑って誤魔化すようにも聞こえるし
 本当のことは言えないと言っているようにも聞こえる。
 医師はこの患者が『はっきりとした意思表示をしない』ことをいつもの事と
 心配そうに深いため息をついた。


「先生、ご心配をおかけしました。
 でもわたくし、覚えはなくってよ。」

「みなさんそう言います。」

「でも、本当に覚えがないのよ。」



 うふふ、と可笑しそうに声が溢れる。
 心底から疑っていないという感情を、そこからは読み取れない。


「一体誰にそんなことを、なさるというの?」

「⋯⋯あなたなら、ご存知では?」

「いいえ?全く。」



 医師はまたため息をついたが、「だって、」と珍しく紡がれる
 患者の言葉に少しだけ警戒するように椅子を引いた音がする。



「わたくし、魔王になるんだもの。」

「ねえ、先生。
 録音なんて面白いことをなさるのね。」