Eno.7 禍津神陽 セトの日記

5.無題

水を注がれたような土砂降りである。

嵐ということだ。こわい。
ばたばたと強かに屋根を叩く雨の音を聞いていると ナナと子どもたちが 身を寄せ合ってあの下水道の傍らで暮らしていた時のことを思い出す。

暖かく 乾いた気候の本国では 滅多に降らない雨への対策が乏しく。よって 突然の雨の日には子どもたちはほとんど稼ぎに出られない。飲めもしない濁った水路をぼんやりと眺めながら 平べったい器に雨水を溜めている。
あと少し増水すれば簡単にこちらまで身を乗り出すであろう 荒れる水路の水かさだが 大して雨の降らない国で暮らしている子どもたちは まったく意に介さない。慣れているのではない。水害の知識がなかったのだ。彼らは屋根の下へ引かれた 薄い布の寝床へ寝そべって 頬杖を突きながらひそひそと 比較的綺麗な水湧き場の話などをしている。

子どもたちも 生きていくため 情報には耳ざとい。
とくに歳の大きな子どもたちは よく街へ繰り出して ものをかっぱらって来たり 奪って来るなどをするので 同時に街の噂には詳しかった。ここより砂漠の方で雨が降り 街ひとつが丸ごと水没する 大規模な水害に見舞われているとか。そういうことを へえ大変だと 聞いたことはあったのだ。
俺たちは後から水害についてを学ぶにつれて悟ったが 彼らがそちらの市街地ではなく 比較的水路や地盤の整備が行われている方面で暮らしていたのは まったく幸運という他ない。

よって 俺たちは雨を恐れている。
この島ではどれだけ雨が降ろうが どうせ海の方へ排水されるのだから 風以外は恐るるに足らないものだと わかってはいるが 俺たちは嵐がこわかったのだ。拠点の中に座り込んでいると 空気を押し潰すように じっくりと雨の音が強くなっていって 恐ろしいのだ。


常々。
人間ちゃんに近付いてから 考えることが増えた。
いつもなら 俺たちはこんな日だろうと踊るように軽やかに外へ飛び出して 人間ちゃんのために荒れる海の中 用意された衣装のまま素潜りだって披露して差し上げるが?……

人間ちゃんは いつも
大したことないものが
こんなにおそろしいのか?