Eno.173 ペリペティアの日記

2:冒険家は、生きて


『冒険家は、生きて帰ってこそ』
 パパは、よく言っていた。
 どんなに大変な冒険でも、
 パパは必ず帰ってきていた。

 だからわたしはあの日も、
 帰ってくるのを、信じてたんだ。

 嵐の日。
『とびっきりの宝物を見つけてくる』
 なんて言って、パパは出掛けて。

──そして、もう、5年、帰ってきていない。

 冒険家は、生きて帰ってこそなんじゃないの?
 帰ってこない冒険なんて、
 誰にも語れないし、

「……寂しい、だけじゃんっ」


 だからわたしは、あの日から決めていたんだ。
 わたしはパパみたいな冒険家になる。
 そしてパパとは違って、
 絶対に帰るんだって。

 あんな悲しみ、太陽が消えた絶望、
 他の人に味わっては欲しくないでしょ?
 パパのことは大好きだけど、
 その点だけは、大っ嫌いだ。

 そして──

  ◇

「…………」


 どうしてなんだろ。
 何を間違えたんだろ。

 そりには珍しい魚と、
 他にも色々を積み上げて。

 たからもの、さがしてた。
 嵐の中で、ひたすらに。

 だけど。

「しにたく……な……」


──どうして、身体が動かないの???

 万全の準備をしてた。
 たっぷり休んで、お弁当も持ち込んで。
 何か見つけられると思ってた。
 絶対に帰れると思ってた。

 なのに。

 石がぶつかって血が流れる。
 飛んできた枝に肌が切れる。
 痛いな。痛いよ。
 それでも、諦めないで探索してたら、

 脚は、もう、立ち上がる力を持たない。
 声は、かれて、助けを、呼べない。

『冒険家は、生きて帰ってこそ』
 意識してたのに。
 わたしは、あんな風にはならないって。

 でも動けない。身体が重い。
 意識は靄が掛かったようで。
 ここで死ぬのかと、絶望が心を覆った。

 頭をよぎったのはオーコ。
 わたしの、素敵なともだちのこと。
 約束したのに、果たせないの?
 あの子に、わたしと同じ想いをさせるの?

 引き際見誤って、命を危険に晒して。
 馬鹿みたいだ。パパと同じじゃないか。
 いちばんなりたくない、わたしじゃないか!

 しにたくない。強く思っても、
 身体を誤魔化すことは──


「──これは無事じゃないと
 判断させてもらいますよ!」


「……やあ。
 こんなところで、なにしてるの」



 ゆめかと おもった。
 こんなあらしのなかで とびだすひとは。

 たすけてもらえた。
 いたみが くるしみが ひいていく。
 ぼやけた視界の中 マツドとリユが見えた。

「…………」


 気が付いたら、介抱されていた。
 感じていた死の足音は、遠ざかっていた。
 たすかったんだと、安堵が、かけめぐった。
 ごめんなさい。

 かろうじて つないでいた いしきが
 かんぜんに おちていく。

 あとで あやまらなきゃ。
 ごめ な さ ──