Eno.15 トト・アズハル・イルファンの日記

トトの手記6

 嵐が僕の下へ運んできたのは、何とも奇妙な石であった。
 正確にはセトが砂浜で見つけたのだが、まあ、実質僕の物と言って差し支えないだろう。

 この石は手に握ってみると不思議な感覚がするのだが、言語化するのは難しい。吸い寄せられるような魅力があり、ずっと触っていたいような……まあ、とにかく触れてみないとわからない、非常に面白い性質の石なのだった。
 それにしたって、今にも昔にもこんな物質は一度たりとも見たことがない。軽く叩いてみても割れそうにないし、かといって熱を加えてみても何の変化も起きない、そんなことあるか?この石の正体を暴きたいという気持ちはあれど、この島の中では叶わないだろう。それほど未知の物なのだ

 これが何なのかは全くもってわからないが、それならばこの特異性を神秘と捉えることにし、少々スピリチュアルかつオカルティックではあるが、この石は御守りとして使用することにした。僕は神など信じないが、信仰……信じるということはそれ同等の力を生むということはよく知っている。この石が、セトの身を守ってくれることに期待して、一針一針丁寧に糸を通していく。出来としては完璧だが、実際にそんな効果を生むのかはこれからのお楽しみ、といった具合。もしも母国へ持ち帰ることができれば、継続してこの石の研究は続けたいものだ。

 ふと思ったが、この島に来てから僕はずっと縫い物ばかりしている気がする。
 テント、雨具、衣服、お守り……それから防寒具。肉体労働は不得意なのでやりやすいのだが、自分よりも幼い子供らがせっせと外に出ているのが頭の隅で引っかかる。
 本来こういった仕事は子供が受け持った方がずっといいはずである。こんな極限状態だとしても子供らしく健やかで愛らしくあって欲しいものだが、その子供らを労働力にしている原因は貧弱な僕にあるからその罪悪感たるや凄まじい。

 貧困層の子供が向ける、鋭い視線を思い出す。あの、悲しい目を思い出す。

 もう少し子供らしくいさせてやりたい……そう思いたち、作業で出た端材でまずは数人分、ちょっとした贈り物を用意してみた。まあ、入らなければ捨てるか火にくべれば無駄にはならないであろう。気に入らなくとも良いのだ、その時はまあ、その時になったら考えよう。
 僕と違って皆まだまだ幼い、知った顔の頼れる大人だっていないのだ。これが子供らにとって、生き抜くための支えになることを祈る。

 あとは、そうだな。あの大きな子供のためにも用意しておくか。

 それにしても、やはり未知というものは学習意欲を刺激する、わからないものだらけのこの島は実に面白い。
 限られた資源や時間の中で何ができるのか考えるのはとても楽しいし、心が躍る。試行錯誤の繰り返しの中で、何の意味のないものを生み出してしまうこともあるが、その失敗こそが醍醐味なのである。失敗を知らない者は成功を知ることもできないのだから、やってみるというのが大切なのである。
 例えば、少し前に狩猟用テントと弓矢を森林での狩猟のために用意してみたのだが、成果はあまり芳しくなく、代わりに片手間に作成した罠の方がずっと優秀であると判明した。こういった発見は失敗なしでは得られないものなのだ。あぁ、あの石に知的好奇心をくすぐられてしまい、工作物のアイデアがどんどんと浮かんでくる。他にも山ほど改善点が浮かんできて何から手をつけようか、何とも悩ましい。
 
 そうだ、この島の名の由来になった彼女のために、煙草……を作ってみよう。どんなものかは大体知っているしきっとうまくいくだろう。
 いかずとも、繰り返し思考し続ければいいのだ。

 何だか、空気がひんやりとしてきたな。焚き火の元に身を寄せるとしよう。