Eno.501 獣の四天王の日記

或いは、人間との共存可能性について

 この何とも形容し難き不可思議な島(敵対勢力による領域魔法の一種であると小生は愚考するが、ここでは形而下的に島と呼称する)に漂着し、丸二日が経過しようとしていた。 動物相や植物相の奇妙さも然る事ながら、日々刻々と変化する気候には、自然と共に生きることを人生訓とする小生でもままならぬことが多々あった程である。

 仮令たといこれが、勇者一行にも魔王軍にも属さぬ第三者の攻撃であると仮定したとして、未だ敵勢を視認できぬのは、
何らかの事故があったと見做すべきか、将又はたまた攻撃する以外の目的があったと見做すべきか。いずれにせよ、魔王陛下の観測結果に従い、沁み着いた小胆な猜疑心を頼りに根拠地を軽快するより外に仕方なしと考える。

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 さて、故国はエゾデスのトカティヌス地方だが、魔王陛下の麾下に参じて、小生は人間という動物を学ぼうとする意思があまり萌さなかったように思う。小生の過去を顧みるに、魔物……特に魔族と人間が共存する道というのは絶対的に不可能であろうと判断したが故なのだが、勇者一行との会話を重ねるうちに、人間の中にも、魔族の生態を知り、対話を望む者が少なからずいるのだと知るようになった。小生の、人間に対する知的好奇心は一度萎えて完全に喪失したものと考えていただけに、この発見は驚きだった。

 けれども、小生の知的好奇心が魔王陛下の大願より優る筈もなく、また、小生の進むべき道や方向性が違える要因に成り得ぬことは天知る、地知る、我知る、人知るものである。

「慈母にも等しき魔王陛下の願う道が正道であると決まっておりますゆえ」