Eno.439 四条 環の日記

寄る波攫われ

遭難。
私はその言葉を聞くと、自分の住む町で行方不明者が出たことを思い出す。私の友人もその中に含まれたことも。
幸いにも、その人たちは全員帰ってきたけど、その話の中には奇妙なことがあった。
何をしていたのか、どこにいたのか。それぞれ今までのことを聞かれた時に、三人とも「遭難していた」と答えたらしい。


「僕もどうやって帰ってきたとかはわからないんだけどね。けど、無人島から遭難したのは本当だよ。
 ほら、この写真。遭難者のみんなで撮ったんだ~。とっても楽しかったんだよ~」

「は、初めての経験だったんだ。水を蒸留して飲むのも、銛を持って水に潜るのも、嵐の中サメに当たるのも……
 今でも夢だったんじゃないかって思うけど……けど、お土産が、そうじゃないって言ってるんだ」

「我が思ふに、そは神をも眩ます不測の事態にはあれど……なお、同時にいとめでたきことなりきとも思ふ。
 ……我は、かの孤高の島に膳せる日のことを、共に円卓を囲った者たちのことを忘れらるる気せずと思はん!」



それぞれ、別の日に、違う場所で行方不明になった人たちだったし、
あの人たちが全員同じ場所に遭難したわけでもないようだった。
だから、暫くの間町中でその不思議な話がどこでも盛り上がっていた。
以前から何かしらの出来事が町中で噂になることはよくあったけど、その時は今まで以上に気になっている人も多かった気がする。


私も気になってしまって、行方不明者当人であった友人に色々と聞いてみたけど、
「お土産」を見せられてもなお、信じられない話だった。
……だって、海どころか大きな川すらない町で遭難なんて、できようがないのないか?





無論、私が今置かれた状況は前に挙げた人々とは全然違う。
地元の町にいたわけでも、水辺からかけ離れた場所にいたわけでもない。
修学旅行で海の綺麗な観光地に行って、気がついたら遭難していたわけだが。


「それでも理解しがたい状況なのは変わらないよ……」



遭難、という二文字は私にずっしりと重さを載せてきた。そして、後先の暗さも。

「……」



……とはいえ、
流れ着いた当初の木の落ち込みようは少しずつ晴れてきて。
むしろ、同じ遭難者さんと協力して行う生活が、どこか楽しいとすら思えるようになっていたのだ。
自分でも信じられない話だけど、道具を作る手が段々と軽くなってきたのは事実でもある。
やっぱり、同じ状況に置かれた人が他にもいる、というのが安心感を与えてくれたりしたのかな。

友人が、遭難した時の話をしてくれた時にちょっとだけ楽しそうにしていたのは、
もしかしてこういうことだったのかな、なんて倉庫の拡張をやっているときに思ったりした。