叔父貴
畜産大学に入ったのにはちょっとした理由がある。
中学の頃になって、叔父と顔を合わせた時のことだ。
『オンツャマのいね山には、必ず強い熊がおる。
おめはセタギだ。無理に山入んな。
もし山に入ンなら、きんじもんだけ守りな。
それはおめさを守ってくれる』
これが、叔父が私に対して残した数少ないメッセージだ。
セタギというのはマタギではない者のことを指し、
オンツャマとは猿のことを指す。
私がかろうじて知っている山言葉の一つだ。
山にいる間、ひとは決して猿、犬、猫を口にしてはならない。
このようなルールが、マタギには多く存在する。
山の女神の機嫌を守り、場を穢さぬよう作られた山言葉に興味を持ち、
いつしか私はおじのようになりたいと思うようになった。
不思議な人だった。
マタギは結婚式や子どもの養育には、決して立ち入らない。
差し出された茶菓子を食べることもない。
そこには確かな信仰があり、同時に論理的な答えもあった。
めでたいことへの関わりこそが、死や穢れに直結するからだ。
彼らが戦うのは熊を初めとした野生の生き物で、
甘い香り一つが命取りになる。彼らはそういう、死線に立っている。
と、私は彼のことを、ひとまず自分の尺度で測った。
けれど、その答えが不完全だという直感があったんだろう。
彼が帰ってこなくなった山というものに、私は執着するようになった。
それ以来、私は一人でキャンプをするようになった。
女一人では危ないという人もいるけれど、
焚き火の音と燃える薪の色に感じる魅力は、きっと男も女も平等だ。
何より、叔父の姿が焚き火の影にあるような気がして、ほっとする。
私の名前は花丸陽葵。140cmの、猟師見習い。
あの大きな背も大きな手も私にはないけれど、私にやれることはあるらしい。
中学の頃になって、叔父と顔を合わせた時のことだ。
『オンツャマのいね山には、必ず強い熊がおる。
おめはセタギだ。無理に山入んな。
もし山に入ンなら、きんじもんだけ守りな。
それはおめさを守ってくれる』
これが、叔父が私に対して残した数少ないメッセージだ。
セタギというのはマタギではない者のことを指し、
オンツャマとは猿のことを指す。
私がかろうじて知っている山言葉の一つだ。
山にいる間、ひとは決して猿、犬、猫を口にしてはならない。
このようなルールが、マタギには多く存在する。
山の女神の機嫌を守り、場を穢さぬよう作られた山言葉に興味を持ち、
いつしか私はおじのようになりたいと思うようになった。
不思議な人だった。
マタギは結婚式や子どもの養育には、決して立ち入らない。
差し出された茶菓子を食べることもない。
そこには確かな信仰があり、同時に論理的な答えもあった。
めでたいことへの関わりこそが、死や穢れに直結するからだ。
彼らが戦うのは熊を初めとした野生の生き物で、
甘い香り一つが命取りになる。彼らはそういう、死線に立っている。
と、私は彼のことを、ひとまず自分の尺度で測った。
けれど、その答えが不完全だという直感があったんだろう。
彼が帰ってこなくなった山というものに、私は執着するようになった。
それ以来、私は一人でキャンプをするようになった。
女一人では危ないという人もいるけれど、
焚き火の音と燃える薪の色に感じる魅力は、きっと男も女も平等だ。
何より、叔父の姿が焚き火の影にあるような気がして、ほっとする。
私の名前は花丸陽葵。140cmの、猟師見習い。
あの大きな背も大きな手も私にはないけれど、私にやれることはあるらしい。