Eno.15 トト・アズハル・イルファンの日記

トトの手記11

 眠っている間にあの冷気は何処かへ消えたようだ。
 じっとりと全身に伝う汗と喉の渇きで目が覚める。口内が張り付くような感覚に口から出る声は掠れていて、危うく寝ながら脱水症状を引き起こすところだった。このタイミングで目が覚めてよかったのかもしれない。僕を抱いていたセトは寝る前に燻していた肉をずっと眺めていたのかなんだか煙臭かった。

 僕の体が熱を持っていることに気づいたセトは、膝の上からそっと僕をおろすと、少し待つように伝えてどこかへ消えていく。その間に、水筒に残しておいた水を少しずつ飲んで渇きを潤す、ぬるくなった水が体の中を伝い染み込んでいくような感覚が、なんだか心地が良かった。そうしてパチパチと弾ける焚き火を見ながら待っていると、セトがぶどうゼリーを手に戻ってきた。

 大きな掌の中にある小さな器の中でプルプルと震えるその姿はなんとも愛らしく、ふんわりとぶどうの甘い香りが漂ってくる。セトはどうやらこれを僕に振る舞うため、密かに仕込んでいたらしい。よくこんなもの用意できたな。素直に感心してしまう。
 まさか、この島でこれが味わえるなんて!そのふるえる甘味は、僕の好物であり、宮殿の中で何度も口にしてきた大変馴染み深いものなのだ。手に器を乗せられるとその振動が少し伝わる。

 気がつけば僕は匙を手に取り、ひと掬い、口の中に放り込んでいた。この口の中の熱でじんわりととろける感覚がたまらない。かき氷もなかなかに美味しかったが、やはり僕はこちらの方が好ましい。久しぶりに食べたのも相まってより一層美味しく感じられた。
 僕はセトと出会ってから、彼の作る食事のみを食べて暮らしているため、この島では小さな木の実を齧り空腹を誤魔化し続けていたのだが、この島の発展によりこんなに嬉しいサプライズを受けるとは思わなかった。なんだか、僕はやっといつも通りを取り戻せた気がするのだった。

 そういえば、この島に灯台が建設された。僕が作り出してしまった偽物の煙草は、この夜の海を燦々と照らしている。我が国のランプにも似たあの灯りを見ていると、なんだか切ない気持ちが込み上げてくるのだ。時々聞こえてくる船の汽笛にもにたあの音につい期待をしてしまう。そんなことを打ち明けてみれば、皆、励ましてくれるのだが、なんだかとても自分が情けなく思えてきて、僕はその場から消え去りたかった。どこかへ逃げてしまおう、そう思い立ち上がった時、小さなカニが大きなプリンを机の上にどんと置いたのだ。
 僕は、その気遣いがあまりにも、愛おしくて、可愛らしくて、笑ってしまった。帰る場所がないと言っていた、あの小さな命の前で、僕の悩みなどは塵に等しいであろう。
 
 さて、かのカニの優しさに報いるためにも、僕は考え続けねばならない。


ーー追記ーー

例の花を作って薬を作ってみた、効果はまだ人間に試していないため、未知数である。分かり次第細かく記述しておく。
それから、僕の作った防具は人の体を持たないカニとウサギから好評のようで嬉しかった。