Eno.710 ねりねの日記

無題

怒られてしまう気がする。
この島で会ったひとたちじゃなくて。


あの日、津波に飲み込まれて一緒に海の底に沈んだ人たちに。


おじいちゃんとおばあちゃんとはぐれて高い所に逃げている時に。
転んで立てなくなったねりねを助けてくれたお姉さんはそのせいで。
横の路地から急にやって来た波から逃げ遅れてのみこまれた。

ねりねも一緒にのみこまれて――たくさんのガラス片が脚に突き刺さって痛かった。お姉さんは瓦礫に掴まって流されないように必死に耐えていて。

叫びながらでもねりねを、それでもねりねを掴まえようと手を伸ばしてくれていた。
結局そこまでだった。
ぐるりと流れの速い水にのって崩れた家と大きな車がねりねとお姉さんに直撃した。

衝撃があって、濁った水の中でお姉さんだった塊がつぶれてちぎれて。

くらりと揺れて、水の中に沈んだねりねは息が吸えなくて。
最後の記憶は脚が2つとれちゃった所で途切れた。

そうやって死んじゃった。

本当は生きてパパとママの所に帰りたい。
死にたくなんてなかった。

でもこんなお願いはずるい。
叶っていいはずがない。

あの津波の日に囚われたままの人たちだって死にたくもなかったはず。

生きて大好きな人たちの所に帰りたいはず。

ねりねがそんなお願いを口にしちゃいけない。
それはあまりにもわがままだ。

またくらい水の底に戻るのだとしても。
ママに貰った指輪をママの所に返したい。
どんな形でもいいから。

もしも助けにお船が来てくれたら、お船の人にお願いしてみよう。