Eno.378 白波の眷属の日記

昼のさざめき

小屋に落ちている貝殻を耳に当てると、かすかに音や会話が聞こえる。

風の音。時折、海沿いの鳥が鳴く声。
ふたり分の足音。ひとつは規則正しく、もうひとつは……やや不規則。



「海が近くなってきましたね、ご老人。
 まだ歩けますか? いや……日暮れまでには、すこし難しいかもしれませんね」



「俺を置いていけば、明るいうちに街まで辿り着けるだろうが。
 同じ信徒とはいえよォ、物好きというんだか、お人好しというんだか」



「そんなことをしたら、私は神様に合わせる顔がありませんよ。
 大丈夫。これを持っているんですから」



「ああ……」「そいつかい」
「俺の若い頃は、そいつを一緒に船に乗せて、海に出ていたもんだよ」



「さすがです。ご存じだったんですね」
「同じ印を扉に掲げた家をさがしましょう。きっと快く迎えてくれるはずですよ」



「ふうん……この道沿い、随分と古ゥい迷信が生きてんだねえ」
「……そういや、俺が鮫に右足をくれてやった日には、持って行かなかったよ」



「おや。そうなると……やっぱりこれは、ご加護があるのでは?」
「……ほら! 見てください、ご老人、あの木の向こう側。納屋の扉を。
 どうですか。古い迷信も、意外と捨てたものじゃありませんね」












「寒くなくなってから、小屋のまわりに石畳の道をつくってたの」
「島への道や、すごい解体台や、ろ過装置もつくってもらって、どんどんくらしやすくなるねえ」


「そのあとミハルにごちそうしてもらったラーメン、おいしかったあ」
「また嵐がくるかもしれないけど、あんまりひどくないといいよね……」