静けさ
ヤヤウィクが背筋を伸ばして、じっと海の向こうを見ている。
正しくは、その向こうに見える何やら不穏な気配のする空を、だ。
「やっぱり、まずそうか」
その横に立って、ブランクスはそう声をかけた。同じように遠くの空を見る。
空の様子がおかしいと、先に気がついたのはヤヤウィクの方だった。
……確かに今までよりも雲の色が濃く、重いような気がする。
『わからん。でもなんか、毛がピリピリするような感じがする』
気のせいだったらいいんだけどなー、と溜息をつく獣の頭に、ブランクスはぽんと片手を置いた。
この島の天候は本当に不安定だ。少し前にも嵐が来て、せっかく作ったものをいろいろと壊された。
その時にもなんとなく、嵐が来そうな前兆というものはあったが……今回は、あの時とも少し違うような気がする。
『気にし過ぎだったらいいんだけどな』
「気にするに越したことはない。先にわかっていれば、あれこれ準備することも出来るからな」
杞憂であればもちろんそれが一番だ。
だが、わかっていながら準備を怠るのは愚か者のすることだ。
本音を言えばもっと安全な場所に避難するか、もしくは拠点をもっと補強したいところだった。
残念ながら今の彼らにそこまでは出来ないから、せめて何があってもいいように、今のうちに資材を集めることにしたのだ。
『あの屋根、嵐が過ぎるまで耐えられるかな』
「さあね。……まあ、死にはしないだろ。食べるものも水もある。籠城するには十分だ」
『すぐに過ぎればいいけどな……長引くとまずいだろ』
「そうだな。でも仕方ない。なるようになるさ」
一応、対策を全く諦めてしまったわけではないのだが……こればかりは時間との勝負だ。
間に合えばよし。間に合わなければ、後は……神に祈るしかないだろう。
「今でも聞いてくれるもんかな」
『何が?』
「僕の祈りを」
呟いた言葉に、ヤヤウィクは何も返さなかった。
もう一度空の向こうを見て、それからブランクスの後を追って歩き出す。
『これだけ準備しておいて、何もなく過ぎたらどうするよ』
「それならそれで、別にいいだろ。備蓄は無駄にはならないし」
何もなければそれが一番いいに決まっている。
とは言えその可能性は高くないだろう。
もしもそうなったなら、それは。
「……そうだな、もし何もなかったら、祈りが届いたと思うことにするよ」
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