Eno.22 妖精の日記

妖精回帰:ニンゲン

 
 
 そいつに出会ってからというもの、本当に未知の連続だった。
 こいつを育てていたのはオイボレのゴブリン種。
 シャーマンだったのが運命を分けたと言っても過言ではない。
 まず、言葉が通じない。視線の先、ブルブルの指の方向、天気の加減と完全な野生。
 当然ツルツルのニンゲンは痩せてて、弱い。3食おやつ昼寝付きの生活なんて夢のまた夢。



「だーかーらーーー⋯!!
 拾い食いするな!それは食べ物じゃないの!」

⋯もぐもぐ。

「待て今なに食った。ぺっしろ!こら!!
 か、かっったつよ⋯テメ⋯!!わー!!ごくんじゃないバカバカバカバカ!!」




 幸い、こいつの相棒⋯?のシャーマンは大人しかった。ゴブリンなんてみんな
 バカ騒ぎと略奪と肉にしか興味がないと思っていたけれど、ぼくみたいなものだと思えば
 不思議と嫌悪感は湧いてこずいつしかぼくはこいつらと『対話』を求めていた。



「なんで骨をまとめてるのか?売ってカネにするんだ。
 この辺りのは珍しいし、欲しいってやつはちょいちょいいる。」

「ぼくはいいから、お前はちゃんとしたものを食え。
 いつまでも虫をかじるのはやめろ。火を入れてもダメ!」

「マメと肉を煮てみたぞ。ダメ、好き嫌いするなバランス考えてるの!
 ⋯何クッキー食べたい?ちゃんと全部食べたらね。」




 それが楽しかったのかは、わからない。そもそも『言葉』が通じないし、
 それを必要だと思ってないみたいだった。ただ、目を離したらいけないと思った。
 こいつが弱いからだったかもしれないし、ぼくの王様が強すぎたのかもしれない。

 いつしか、ぼくは死にたくないと考えていた。

 ⋯次あった時、こいつが死んでいたらどうしよう。泣いていたら?腹を空かせていたら?
 ケガをしていたら、ねむれなかったら、死にかけていたら。


 時間が許す限り、今まで惰性で過ごしていた分を取り戻すみたいにぼくは勉強した。
 こいつらが生きるには金がいるし、教養、知性、何より友達だって必要だ。
 オイボレのシャーマンを説得しながら、クニでこそこそ金を稼いで貯めて、
 食べ物や器具、装備、おむつ、衣服。色々買って計算して、日誌をつけた。



 ⋯⋯たりない。
たりない、ぜんぜん足りない!
 3年なんてあっという間だった。死にたくない。絶対に、今じゃない!!
 けれど、ニンゲンを育てるのにハマっているなんて報告はできない。
 なんとかあいつを上手く隠しながら、力をつけて生きていけるまで、あるいは見逃してもらえるよう⋯⋯





「⋯⋯という、わけなんだ。興味あるだろう?」

「ま、まあ待ちなよ。別に肩入れしようってわけじゃない。
 すぐに死んだらつまんないじゃないか。これは賭けだよ王様。」

「⋯ぼくが手塩にかけて極上の勇者を持ってくる。
 ぼくのダストは結構万能ってキミも知ってるじゃないか。
 回復、バフ、デバフ、味付けにポーション作り⋯⋯」



「⋯⋯だから、ぼくに寿命を分けてくれないか。
 必ずキミ好みにするって、約束する。




「まかせてよ。ぼくを誰だと思ってるのさ。

 ぼくはキミの隠し刀。今度はちょおっと、長い目で情報が必要なんだ。」




 たとえ、王様の信用を損失しても構わない。
 あいつが大きく育って、オイボレみたいに立派に長生きしてくれれば。




「王様。ぼくはキミと一緒に死ねるけど⋯⋯」

「あいつとは死ねない。キミこそぼくの全てだよ。」





 親友にウソを吐いてでも、ぼくはあいつを守りたかった。