Eno.808 十五夜の日記

むかしばなし

「おかーさん! 魔法天使始まるよ!」

 娘のめぐは魔法少女に憧れていた

 魔法少女の真実を知る私としては、
 母さんの事が今も美談として語られる事に嫌気がさしていたが、
 そんなこと言えるはずもなくて

 めぐも私と同じく魔法が使えたからか、魔法少女ごっこをするようになった

 あの子が変わったのは、祖母代わりだった師匠が死んでからだ

 誰かがいなくなる事を極端に恐れて、
 元々困ってる人を放っておけない性分だったのが悪化していた

 ……今の私も、人の事は言えないが

 めぐは、一部があの時のまま成長してしまった
 私が願った通り愛に恵まれた。恵まれすぎてしまった

 彼女は純粋過ぎた

 これからもそのままでなんて願ってしまった

 どうか、あの子の魔法が“殺意”の魔法でありませんように

 そう、願ってしまったから

 めぐは18歳の時、失踪した

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「──お前が、噂の殺人鬼か」

 めぐの失踪後、医者となって数十年が経ち、
 赤いフランベルクを持つ、めぐに似た少女と出会った

 めぐが生きていた? それとも子孫?
 わからない。けど、その子は私を睨んでいた

「……どうして、僕の獲物を奪った?」

「そこに、生きたいと願う奴がいたからだ」

「こいつを生かしておけば、無関係な奴らが殺される!
 それでもいいのか!?」

「……どんなに人を傷つけようと、全員オレが治す」

 そう言った直後、その子が見せた表情は、
 とっても不器用な笑顔で、めぐだと受け入れてしまった

「…………狂ってる。最高に、狂ってやがる!
 気に入ったよ、あんた。名前は?」

「……十五夜。十五夜草の、十五夜だ」

「じゃあ、僕は新月ニイヅキだ。月無き夜のシリアルキラー
 そして……あんたの敵だ」

 変わり果てためぐを前に、私は何も言えなかった

 何があったかも聞けないまま、時だけが過ぎて行った