14.無題
闇の中で響く 雨音。
恐ろしく強い風。じっとりと湿った空気。向こうの空を照らす 一瞬の雷鳴。あの際限なく肥大化した黒雲を あんなにも照らす電圧が かの雲の中では動いている。地を揺らして 響き渡る 雷の音は 不意を打たれると 少々驚くだけで まったく平気なのだが。
今居る此処が 風で家鳴りのような音を立てる度。強くなった雨の音が 我々の声を塗り潰した度。そんな 何でもない事を意識してしまうと 不意に とてつもなく恐ろしくなるのだ。腹の底が冷えて 項が泡立って ほんの一時だけ 他に何も考えられなくなる。
ええい。こんなもの 水と風だろうが!
この島へ流れ着いて 数日経ったが 何時もならば なんでもないようなことに過剰に心を動かされているという自覚がある。
そうは言っても。嵐の神 とも形容される俺たちが こちらを恐れるのは 賢い兵器であるためであるが?この水と風が すーごく 危ないことを 知っているためであるが?些か 過剰に恐れていると思うか?いいだろう。そう言い張りたいのなら それでも構わない。俺たちは 信じない。
嵐の間 俺たちの腕の中には 空ちゃんが収まっている。
なんて愛おしい。俺たちは 空ちゃんの ふわふわの頭髪の素晴らしさ ふにふにとした肢体の愛おしさは 俺たちの 硬直した指では 感じることが出来ない。だが 俺たちには それ以外がある。せやな。例えば 心とかっすかね。
この子は 俺たちを呼ぶ時 小さな手で 俺たちの指を握り締めるのだ。進行方向を指で示して 無邪気に俺たちを見上げながら 一生懸命に手を引くのだ。これがなんとも愛らしい。
俺たちの手は 危ないのだと 再三伝えているはずなのだが 大丈夫だと 軽く流されてしまい 恐れる様子も 気を使う様子もない。だからと言って 俺たちは 子どもに俺たちを恐れて欲しい訳でも 痛い目を見て欲しい訳でも 無い。
いっそ 丸めてしまおうか。
空ちゃんは かわいく えらく 勇敢さんであるが 些か俺たちの爪の扱いにおいては 危なっかしいところがある。肉を捌くには 片側だけ残っていれば良いだろう。この機に削ってしまう。どうせ折れようが 削ろうが 再び 伸びてくることを 俺たちは知っているので。
手頃な石材に 爪を擦りつけている俺たちを 不思議そうに覗き込んでくる空ちゃんは まさか自分の為に俺たちが爪を削っているとは 考え至らない様子である。良いのだよ。お前は気にしなくていいのだ……♪これは俺たちが 好きでやっているのだから。好きでやったことで えばるべきではない。
尻尾を柔らかい腕へ巻き付けて 空ちゃんを呼ぶ。
空ちゃんは 俺を使って 遊ぶのがすきなようだ。座っている俺たちの腕からごそごそ 抜け出したと思えば 背中へ体重を掛けられ。身を乗り出すように 登ってこられた時など 俺たちに集る 子どもたちのことを思い出して 止めるべきなのだが 笑ってしまった。なんてわんぱくさんなの。
空ちゃんくらいの 子どもなど 乗っかられても 雲のように 軽い軽い。居ないも一緒である。存分に俺たちを使うが良い。あ!腕へぶら下がるのはダメ!危ない!でも可愛い♪止めることが出来なかった。
今までは 懸命に働いている所しか 見た事がなかったが 空ちゃんは自由に使っていい 暇があると こんなに子どもらしく 愛らしいのね。それとも 外に出られなくて 元気が有り余っているのだろうか。
結局 俺たちの腕の内へ 居る間
空ちゃんが 嵐を怖がる様子は無かったが。
俺たちも 空ちゃんに 遊んで頂いている間は 嵐のことを気にせずに居られた。未だ風は強いが いつの間にやら 少しずつ雨足は落ち着いて来ている。
ああ 沢山笑った。
無邪気な子というのは どうしてこんなに愛おしいのか。
にしたって トトを見ないな。
死んでんのか?
恐ろしく強い風。じっとりと湿った空気。向こうの空を照らす 一瞬の雷鳴。あの際限なく肥大化した黒雲を あんなにも照らす電圧が かの雲の中では動いている。地を揺らして 響き渡る 雷の音は 不意を打たれると 少々驚くだけで まったく平気なのだが。
今居る此処が 風で家鳴りのような音を立てる度。強くなった雨の音が 我々の声を塗り潰した度。そんな 何でもない事を意識してしまうと 不意に とてつもなく恐ろしくなるのだ。腹の底が冷えて 項が泡立って ほんの一時だけ 他に何も考えられなくなる。
ええい。こんなもの 水と風だろうが!
この島へ流れ着いて 数日経ったが 何時もならば なんでもないようなことに過剰に心を動かされているという自覚がある。
そうは言っても。嵐の神 とも形容される俺たちが こちらを恐れるのは 賢い兵器であるためであるが?この水と風が すーごく 危ないことを 知っているためであるが?些か 過剰に恐れていると思うか?いいだろう。そう言い張りたいのなら それでも構わない。俺たちは 信じない。
嵐の間 俺たちの腕の中には 空ちゃんが収まっている。
なんて愛おしい。俺たちは 空ちゃんの ふわふわの頭髪の素晴らしさ ふにふにとした肢体の愛おしさは 俺たちの 硬直した指では 感じることが出来ない。だが 俺たちには それ以外がある。せやな。例えば 心とかっすかね。
この子は 俺たちを呼ぶ時 小さな手で 俺たちの指を握り締めるのだ。進行方向を指で示して 無邪気に俺たちを見上げながら 一生懸命に手を引くのだ。これがなんとも愛らしい。
俺たちの手は 危ないのだと 再三伝えているはずなのだが 大丈夫だと 軽く流されてしまい 恐れる様子も 気を使う様子もない。だからと言って 俺たちは 子どもに俺たちを恐れて欲しい訳でも 痛い目を見て欲しい訳でも 無い。
いっそ 丸めてしまおうか。
空ちゃんは かわいく えらく 勇敢さんであるが 些か俺たちの爪の扱いにおいては 危なっかしいところがある。肉を捌くには 片側だけ残っていれば良いだろう。この機に削ってしまう。どうせ折れようが 削ろうが 再び 伸びてくることを 俺たちは知っているので。
手頃な石材に 爪を擦りつけている俺たちを 不思議そうに覗き込んでくる空ちゃんは まさか自分の為に俺たちが爪を削っているとは 考え至らない様子である。良いのだよ。お前は気にしなくていいのだ……♪これは俺たちが 好きでやっているのだから。好きでやったことで えばるべきではない。
尻尾を柔らかい腕へ巻き付けて 空ちゃんを呼ぶ。
空ちゃんは 俺を使って 遊ぶのがすきなようだ。座っている俺たちの腕からごそごそ 抜け出したと思えば 背中へ体重を掛けられ。身を乗り出すように 登ってこられた時など 俺たちに集る 子どもたちのことを思い出して 止めるべきなのだが 笑ってしまった。なんてわんぱくさんなの。
空ちゃんくらいの 子どもなど 乗っかられても 雲のように 軽い軽い。居ないも一緒である。存分に俺たちを使うが良い。あ!腕へぶら下がるのはダメ!危ない!でも可愛い♪止めることが出来なかった。
今までは 懸命に働いている所しか 見た事がなかったが 空ちゃんは自由に使っていい 暇があると こんなに子どもらしく 愛らしいのね。それとも 外に出られなくて 元気が有り余っているのだろうか。
結局 俺たちの腕の内へ 居る間
空ちゃんが 嵐を怖がる様子は無かったが。
俺たちも 空ちゃんに 遊んで頂いている間は 嵐のことを気にせずに居られた。未だ風は強いが いつの間にやら 少しずつ雨足は落ち着いて来ている。
ああ 沢山笑った。
無邪気な子というのは どうしてこんなに愛おしいのか。
にしたって トトを見ないな。
死んでんのか?