泡沫:4
彼の父親は、ここ数年、寝たきりで過ごしている。
背が高く、自分と同じ地黒で、自分と同じように、普通の人間の顔をした、寝たきりの割に体格のいい、隻眼の男だった。
ただ、自分と異なるのは。身体中に鱗が生えていて、尻尾が根から生えている。
魚人の特徴を所持していることである。
それでも、父親は変わり者に違いがないようだった。
昔から村から出ることばかりを考え、村長の話も聞かずに飛び出して行った。
だから、自分の生まれる昔には、この村を飛び出し、世界各地を、見つけた仲間と一緒に回る旅をしていたと話している。
妖精と吸血鬼。
そんな、おかしなおとぎ話みたいな人と一緒に回っていたのだと。
…
旅の話は本当かもしれない。
自分は外に出たことがないから、ただ外の話を聞かされても、そうなのかもしれないと思うばかりだった。
ただし、妖精と、吸血鬼に関しては嘘だと思っている。
研究者たちにそれを告げれば、そんなわけがないだろうと一蹴されてしまったのだ。
君はこの村から出たことがないから知らないかもしれないが、それは常識なんだ。
吸血鬼なんてものは架空の存在であるし、妖精は人間から逃げるように“神のいるあちら側”に逃げて行ってしまって、もう殆どいないのだと。
生息域が奥深くにあると思われる海の妖精や、空の妖精はわからないが。
森にあると言われている、植物の妖精は、1匹たりともいないのだ。
そう話していた。
「馬鹿いえ。植物の妖精は、1匹、しぶとく地上にかならずいやがるよ」
「あいつは、気に入ったやつの前以外には姿を現さんだけねえだけ」
わかってねえなあ!と父親はガハハと明るく笑って見せた。
父親の仲間だという妖精は、植物の妖精だというのだから。
だからきっと、ほら話なんだろう。
けど、その話は割と面白かったから、まあ、ほら話でも彼は全く構わなかった。
──さて。
元々父親は、物心ついた頃には体が悪く、それを騙し騙し、使うようにして、漁をし、釣りをし、貝をかき集め、働いていた。
昔は槍なんかを持って、昔の名残、ファンタジーの終わり。魔物たちの討伐などを行なっていた冒険者だったらしいが。
そのうち、そこまで機敏に動けなくなっていたと、話す。
それが村の帰りどきだと思っていたから、戻ってきたのだと話す。
片腕に生まれたての赤子を抱えて。
「…」
──母親に関して、父親は一切口外せず。
男を入れ食いにしていた女だよ、とだけ話している。
ただ、子どもには罪がないものだから。
「生まれた子だけ攫ってきた。俺が責任持って育てるために」
責任持っての割にこのざまじゃ、笑い草でしかねえけどよ。
なんて。
情け無く。
笑っている。
◆
海に妖精はまだいるのか?
その答えをまだ知らない。