Eno.91 シィリヤーレルの日記

【7 ほんとうの自分は】


 森が嫌い。怖いから。
 森が嫌い。その力が、
 かつて、──を傷付けたから。

 だけど怖いままにしたくなくて、
 森に行けば、心臓が激しく痛んだ。

 あの傷は今はない。
 幻痛だと分かっているのに、
 どうしてこんなにも苦しいの?

「…………」


 それでも尚、頑張ろうとしたら。
 セツカが、現れて。

 僕の嘘を見抜いてた。
 僕が演技で笑ってるって、分かってた。
 君の目は誤魔化せないらしい。
 あは、は、は……。

「……話しちゃった」


 ぜんぶ、ぜんぶ。
 墓場まで持っていくと決めていた秘密、まで。
 鏡に映っているのは虚像だった。
 ねぇ、全て繋がったでしょう?

 話したら、ちょっと心が軽くなった。
 泣きそうになってたの、隠した。
 ……ありがとう、セツカ。

 だけどそう。僕はひとつ、気付いたんだ。

「──“僕”は、誰?」


 誰もその名を呼ばないから。
 思い出せない、思い出せないな。
 僕自身も、僕のことを忘れてしまっている。

 だって“僕”は、誰にも必要とされなかった。
 頭が良過ぎたから、臣下の企みにもすぐに気付いて。
 誰もこんなの、必要としてくれなかった。
 僕自身も、そんな僕なんて要らなかった。

 空白な僕。嫌い、嫌いだ。
 演じるだけで、何にも成れないで。
 秘密吐き出して空白に気付いて、
 少し惨めな気持ちになった。

「……僕は、誰、なの」


 あぁ、誰か、名前を呼んでおくれよ。

 僕だってもう分からないのにさ。
 誰が覚えているの? そんなもの。