Eno.132 エルディス・エアリアルの日記

■:×××の手記/××の日記

……ええ、死んだのです。「勇者エルディス・エアリアル」は。
 

 間違いなく、私たちの目の前で。すべて、見ていました。

 固まって動けなくなったフィルちゃん。私たちを守ろうと前に出たモルト。
 そして。





 ……エルディス様をゆすり、声をかけ続けるディータ様。

 私は駆け寄り、回復をかけようとしました。私なら、蘇生も、完全回復も使えましたから。

 けど、それは、エルディス様自身の手によって叶いませんでした。

 私とディータ様は、エルディス様によって突き飛ばされました。
 先ほどまでいた場所には、黒い矢が刺さっていました。


 国王が、国宝の大弓を使って撃ったのです。そして、その矢は濃厚な瘴気を放ったのです。

 瘴気は、人間の生命力を阻害します。このままでは間に合わなくなる。だから、即座にそれを浄化しようとしました。

 けど、次から次に矢は放たれて、間に合いませんでした。

 そもそも、何故この場に国王と大司祭様がいるのか。何故エルディス様を殺し、瘴気まみれの矢を撃ったのか。

 それがわかったのは、後の話でした。

 ……ええ、その場ではわからなかったのです。

 ただ、その場でわかった……いえ、分からざるを得なかったことはありました。

 大司祭様は、私たちに何かを放ちました。
 攻撃魔法ではありません。それは、呪いのようなものでした。



……………………


 …………彼らにとって、「魔王を倒した者たち」は邪魔だったのです。
 
 本来は、共倒れを狙っていました。

 何故、勇者への支援が僅かな金銭のみだったのか。
 
 何故、国自体は平和そのものだったのか。

 何故、「勇者」が噂にしかなっていなかったのか。









 フィルは、声を奪われました。筆談はできますが、「信じられなくなる」呪いをかけられています。私たち以外に、意思疎通ができる人間はもういません。

 モルトは、人間性を奪われました。今は異形の魔物となりながらも、この隠里の番人を務めています。ミィカちゃんの力がなければ。ただの獣になっていたでしょう。

 私は、交流を奪われました。瘴気に汚染され切った私は、人のそばに行くだけで衰弱させてしまいます。魔物の彼らがいなければ、とっくに壊れていたでしょう。


 そして、ディータは。




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……。

 体を隠す黒いインナーの上から、青い服を着る。

 胸当てのベルトを留めて、腰のベルトに鞘をかける。

 赤いマントを留め、銀のサークレットを身に着ける。

「スワンプ」

 

 魔法を一つ唱えれば、長い金髪は琥珀色のくせ毛になって。

「さあ!今日も、いろいろやらなくっちゃな!」




そう!勇者は簡単には死なないんだ!

エルディス・エアリアルは生きている!!!

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…………彼にかけられた呪いは、「狂化」でした。