翅無し
遠い遠い海の果て、青く輝くきれいな水の上に
大きな樹に飲み込まれるような形でその国はありました。
住人たちは皆背中に美しい翅を生やしていて、
背中に翅を持たずに生まれた者たちは
総じて人とは扱われませんでした。
どんなに努力してたくさんの魔法が使えるようになったって
翅が生えていなければその人に価値などありません。
どんなに翅を持つ者たちと変わらないくらい見目が良くたって
背中に翅が生えていなければ比べる対象にはなりません。
そんな世界が悲しくて、そんな世界が苦しくて
ひとりの翅を持たずに生まれた者は、
どんな人の目も欺いてしまうほど精巧な翅を、
とびきりうつくしい偽物の翅を作り出しました。
彼はうつくしい者たちの仲間になって他を見下したかったわけではありません。
偽物の翅で本物を凌駕して悦に浸りたかったわけでもありません。
ただ、ちゃんと会話できる最低限のラインに立ちたかっただけでした。
どうして翅を持たない者たちは道を歩いているだけで嘲笑を受けるのか、
どうして翅を持たない者たちは国に一歩も入ることは叶わないのか、
ただ、今まできちんと会話すらしてくれなかった人々に問いかけたかっただけでした。
貴方たちはどうして翅の有る無しで付き合い方を変えるのか知りたかっただけでした。
「……え?はねなしを いやがるりゆう?
そんなこといわれても わかんないよ。
だってアイツらは そういうものでしょう?
りゆうなんてないんじゃない。」
彼らが背負っているその翅が、ひどく醜いものとしてその目に映るようになったのは、
そんな言葉が不思議そうな顔をした翅を持つ者から返ってきた時からでした。