Eno.7 禍津神陽 セトの日記

16.無題

ふと入った仕事場に 紙きれが落ちている。
資材のひとつにでもなろうかと、不器用に拾い上げた。
…………広げて 中身へ目を通す…………


……矢張り 貴様 調子が可笑しかったようだな。
そういう 弱々しいところを 友人として好ましいと思えど 同時に 気色の悪い と脳裏を過ぎる言葉を 外へ出さずに飲み下し続けるのは 詮無いことである。正しく思考するために 一度口に出しておこう。
お前は気色が悪いよ。さあ続けよう


アアそうである。俺たちは兵器である。
俺が 俺たち と成った時 お前には語った筈だ。
俺たちセトは学の無い若者ナナを騙し 素体とした 殺戮兵器だと。

片割れが病の悪化を隠し 金も無く 医者も呼べず 正しい治療も子らには解らず。片割れの 苦痛を隠す質が災いし 発覚した時には既に死の間際。頼むと遺された5人の忘れ形見こどもたちを 今の稼ぎでは養うことが出来ない。
知恵の無い彼は 残された子どもらを養うに困窮し 一時の端金のために 人を用いた蠱毒へ己の身を 売り払うに至る。数多の死体を踏み付け 見事その頂まで登り遂せた末 成し遂げたと拳を掲げたが。勝ち抜いた賞金は支払われず 床には帰されず 何の願いも叶えられず。


其の侭 兵器セト と相成った。
このセトが ナナの代わりに 子どもらを養おうと 再びどうにか かつての塒へと戻ることが叶った時 知恵 と 力 の支柱を二本失った彼等は みな死に絶えた後だった。そう お前には話したでしょう。

このような 悍ましい経緯から産まれた 戦争兵器の俺たちを 神と形容してまで揶揄したいのなら ご自由に仰るが良いだろう。失言に対しても 俺たちは極めて慈悲深い。
腸の煮えるようだが お前は調子が悪いので 強い感情が在ることを考慮してやろう。対価の取り立て迄 猶予を与えて差し上げる。俺たちは 慈悲深いので。




俺たちは お前の苦しみを解ってやれない。
俺たちは お前の真のお友達ではない。兵器である。

お前が思うような 冷酷無慈悲な兵器の俺たちが 真に価値が無いと断じたのならば。今 お前がこの島の何処へ投げ出されているのか お前が一番よく 解って居るでしょう。俺たちは お前が育てたのだから。
太陽の下へ出られないお前など 大した労働力にならないお前など 皆と食事を取れないお前など 捨て置いて。さっさと身軽に探索へ出掛けた方が まったくこの島の人間ちゃんの役に 脱出の役に立てるのに そうしない理由はなんでしょう。
果たして解るでしょうか。思い付いても 自分の考えに自信が有りませんか。わざわざ俺たちから 答えを口にされないと安心できないか?
はあ 赤子のような奴〜。

……あの晩。
お前から与えられた 愛おしい子どもたちの人形。
俺たちが それにみっともなく縋り付き ピイピイ情けのない声をあげて泣く様を見てなお このような事を考えるのは 間違いなく疲れているのでしょう。
空ちゃんと共に 気持ち良く眠れましたか。きちんと体を休めていますか。俺たちに対する お前からの一方的な決別に けじめを付けさせることが 出来たでしょうか。
何かを 信じることが出来ないのは わかるが。
今は何もかもを 信じるしかないのだ。

信じられないもので 雁字搦めになってはならない。



さて。
もう起きていますか。花火が上がったよ。
あちらの汽笛の音が ここまで聴こえるなら きっと向こうの海路へは この花火の音は 火花は 響いている事でしょう。くだらない 式典の くだらない演し物だと思っていたが それを一生懸命 手ずから作った この島の人間ちゃんたちと見上げていると なんだかいいモノにも 思えてくるものです。
お前はばかばかしく 汽笛に 助けを願っていたが もしかしたらと 俺たちも思ったよ。もしかしたら。この広大な海の上だろうと。
たった一発の花火に こうまで 心を動かされるとはな。


さて。見てしまったものは仕方ない。
内緒にしてやるが この島を出たら 正しく語らう必要があるな。
俺たちはお前に 俺たちではなく 人間ちゃんと仲良くして欲しい。

お前を救えなかった 兵器の俺たちではなく。
またやり直したらいい。同じ人間ちゃんたちと。
俺たちは 加護を齎す程度が 据わり良かろう。

再び 儲けた 生命いのちなのだから
伸び伸び 大胆に 咲かせるがいいよ。