Eno.1017 エララ・C・ビスケットの日記

◼︎ 笑みとは

 
 
 総括:他人、しかして自分の心を安定させるものである。


「⋯興味がない~。」




 偉い先生が書いたと言う専攻書をどれだけ読んでも全く理解できなかったのが
 エララが6歳になった夏であった。あの時の女はとてつもなく陰気な顔をしていたと思う。
 明け狂うほどの歳不相応な勉強に疲弊し、説明を理解する気がないジジババの学会へ
 連れ回されて挙げ句の果てに質疑応答で言われた言葉は「顔が死んでいる」である。



「あ~⋯⋯それはしつぎではありません。
 研究結果とのそうご関係を求めますのでかいとうをお願いします。」




 会場のざわめきも大祖母の悲鳴も癇癪を起こした老人もまっっっっっっったく。
 全くだ。なにもわからない。理解しようとするだけ無駄なのだと気づくまでに
 そう時間がかからなかったことだけが、「ああよかった、」と心底女を安堵させた。


 理不尽にも大祖母から言いつけられ「はんせい」するまで離れに軟禁されている間、
 虚しく鏡の前で顔を作る努力をした。ここにある本を全て入れ替えてもらわなければ。
 もっぱら、新しい知識を蓄えることにしか興味がないから必死であった。



「おおおばあちゃま、ごめんなさい
 おばかなことをしました。⋯⋯ゆるしてくださる?」




 ⋯そういって上目遣いで目を潤ませた時大祖母の目は大きく開き、まるで魔女みたいに醜く笑った。
 「ああ、そういえば あんたは美人だったね」としまい込んでいた異性の肖像画を
 執事に取り出させていたのは⋯よく考えれば先に燃やしてしまった方が良かったと思う。



 (⋯⋯なるほど。)
 (笑ってあげればこうすると安心ゆだんするのか。)



 思えば女は、この時からすでに『魔王』の素質があったのだった。