Eno.717 天音 空の日記

わくわくそわそわ

朝起きたら隣にトトおじさんがいた。どっか行ってなかった。よかった。引き止めてよかったかな。よかったよね。あのままどっか行ってたら、風邪引いてたかもだし。帰って来なかったかもだし。

セトおじちゃんは、まだ疲れてるからっておじさんを仕事場のテントに運んでった。おれも着いてった。寝かしつけるのも手伝った。なんか寝ぼけてたしね。もっと寝たほうがいいよ。

花火が上がった!試し打ちだって。ちゃんと上がったよ。昼の花火もきれいだった。大砲はおれが磨きましたドヤ。チャロちゃんがきのみ取ってきてくれたからきれいに磨けたよ。褒められちゃった。照れちゃうね。花火大会、楽しみだね。

おじちゃんは嵐が平気になったみたい。おじさんも起きてきた。いつもと同じ感じ。元気になった。よかった。みんなで、船作るぞってわくわくしてる。おれもわくわくしてる。木、集めるよ。作るのも手伝えたらいいな。

救援とか、造船とか、帰れるぞ!が強くなってなんだかそわそわする。安心もある。それと別のそわそわ。これはいらないから、考えるの嫌だから、帰ることだけ考える。帰らなくっちゃ。そうだよね。




ないしょのないしょ
大人はおれを置いてどっか行く。おれが引き止めたり、着いて行こうとしたりすると、困った顔をする。謝るだけで、何にも教えてくれない。おれを家に閉じ込めて、自分は好きな場所に行く。別に閉じ込めてるつもりはないんだろうけど。

母さんはおれを抱き締めて、ごめんねって泣いて出て行った。知らない車に乗ってった。知らないおじさんが乗っていた。どこに行ったんだろうね。もう帰って来ないんだね。母さんの家はここじゃなくなったみたい。なんでって、聞いたら教えてくれたかな。くれなかったよね。行かないでって、言ったらいてくれたかな。くれなかったよね。

父さんはおれの頭を撫でて、ごめんなってくたびれた顔で出て行く。会社に行って、仕事をして、仕事をして。忙しいのは前からだけど、前はもっと帰って来てたよね。母さんがいないから帰りたくないのかな。おれしかいないから帰りたくないのかな。帰って来てって、言ったらいてくれるかな。くれなかったら嫌だから、言わない。

ひとりで家にいるのは、静かで、空っぽで、つまらない。だから遊びに行く。でも、友達とはあんまり遊ばなくなった。だってみんな、帰ったら誰か待ってて、今日の晩ご飯とか、宿題しなきゃ怒られるとか、いっしょにゲームするとか。ずるい。羨ましい。なんでおれだけ。うまく笑えないから遊ばなくなった。別に、話したりはするけど。

町内会の集会所にはおじいちゃんおばあちゃん達がいる。おれが行くと子供が来たって可愛がってくれる。もうそんなちっちゃくないんだけど、可愛がられるってことはいてもいいってことだから、可愛がられておく。将棋とか囲碁とかお手玉とかする。全部興味ないんだけど、興味ないといる理由がないから、興味あるってことにしてる。大人同士で遊んでたほうがきっと楽しいんだろうけど

おじいちゃんもおばあちゃんも日が暮れる前に帰りなさいって言うから帰らなくちゃいけない。でもまだ帰りたくないから、近所の海に寄り道する。何もすることないけど、砂浜に絵を描いたり、貝殻とか石を海に投げたり、ゴミ拾いしたりする。別に大丈夫だよ。夜になる前に帰るから。

あの日は、風が強かった。波も強かった。そろそろ帰ろうって思ったらおっきな波に食べられた。海に飲み込まれて、上も下もわかんなくて、息が苦しくなって。気がついたら知らない砂浜にいた。知らない大人がいた。知らない子供がいた。知らないカニとうさぎがいた。全然知らない島だった。

みんな帰ろうって頑張ってる。おれも頑張らなくっちゃ。帰らなくっちゃ。誰も待ってなくても、おれの家はあそこなんだから。いないの、気づいて欲しいけど。探して、待ってて欲しいけど。……帰ったら、みんなとはお別れなんだよね。寂しいね。言わないけど。大丈夫、平気なふりは得意だよ。誰にもバレたことないんだから。