トトの手記16
船を作ることになった。
僕は、時々セトの外交についていくときに乗るくらいしか船のことを知らないのだけれど、やりたいと声を上げてみるとあっさり通ってしまった。いいのかそれで。船の名前は『蟹工船』、島のカニが幻覚作用等のある毒キノコ食べ天啓を得た時にそう呟いていたので拝借した。このカニはこれから作成予定の船の原型を作成した立役者なので、名を残すべきカニである。もし、無事に船が完成し、我々が元の場所へ戻ることができたその時には、この船を彼らのしばしの休息のために使ってほしいものである。
船といえば、僕が眠っている間に難破船がこの島に漂着したようである。すでに島民たちがあらかた物色を済ませた後ではあったが、よく見てみるといくつかの宝石や、もうこの世には居ないであろう者が遺した書が、その航海の過酷さを表すように散らばっていた。もしも、僕たちが造船予定の蟹工船が同じような目にあったら、そう思うと肝が冷える。船造りのためには正しい知識が必要である。荒廃しきった船の中を見て回るのもいい勉強になった。ただ、この船に乗船していた人々はどこへ消えてしまったのだろうか?謎は深まるばかりである。
そんなことよりも、どうしても書き記しておきたいことがある。
僕は今日、あの念願のチーズを食べることができたのだ。突然セトに呼ばれたと思えば、僕の掌には白くて美しいほろほろとしたチーズにカットされたぶどうが添えられた、それはそれは見栄えも良いチーズサラダが乗せられていた。
そう、僕は、チーズが大好きである。あの日、シシがチーズを見せてきた時から、ずっと食べたかったのである。それが僕の手の内にあるなんて!ああ、この喜びは誰にも伝わないだろう。本当に嬉しかった!
まるで宝石のようなその姿をうっとりと眺めてみれば、セトにきっと美味であろうと唆される。そんなの知っている!これがどれだけ美味しいのか!セトは料理を最も良い状態で提供してくる、つまりすぐに口の中に放り込み、味わうべきなのである。
そうして、念願の一口目を掬い上げ食べてみる。真っ白の美しいチーズは舌の上に乗せるとその形を崩していき、もろもろとした食感がたまらない。程よい爽やかな酸味とクリーミーな味わいに、付け合わせのみずみずしいぶどうが大変よく合う。美味である。食べる前からわかっていたことだが、大変美味である!味わいが単調にならないようにとふりかけられたブラックペッパーの香りと塩の塩味がより食欲を刺激する。まさかこれほどのものがこの島で食べられるなど!誰が思うだろう!本当に、本当に美味しくて、僕は夢中で食べてしまった。
気付けば、器の中身は空になっており、なんだか悲しみが湧き上がってくるほどであった。ああ、チーズ、もう一度口にしたいものである。
この手記を書きながらもあのチーズに思いを馳せてしまうほど、美味であったのだ……
忘れてはいけないことがあった。
僕は今日、十数年ぶりに他人と共に食事をとった。オーランやセト、子供らに召使い……奴らはまた別としての話だが。少年が小さな口でサクサクと食べ進めているクッキーに目を惹かれ、なんだか微笑ましく思い、良いものを食べていると声をかけたのが始まりである。きっと、僕が腹を空かせているのだと思ったのか、彼は残されていた一枚のクッキーを手渡してきた。普段の僕であれば絶対に拒絶して意地でも食べなかったというのに、少年のくれたクッキーは食べるのに抵抗がなかった。正しくは、怖くなかった。未開封のクッキー缶に入っていたというのもあるが、あの心優しい少年の手から掌に乗せられたクッキーは不思議と食べても良い気がして、気がついたら口へと運んでいた。サクッとした食感に、バターの豊かな風味が口一杯に広がる。
僕が食べている様を、少年は笑顔で眺めていた。あの、嫌な笑顔ではなく、嬉しい!と顔に書いてあるほど明瞭な笑顔だった。僕はあの夜、この少年と共に眠ってから、なんだかとても絆されているような気がする。この僕が滅多に外へ出ないというのに、再びクッキーを見つけて、共に食べるという約束をしてしまったのだ。
でも、それは嫌ではなく、なんだか、少し楽しみなのである。
もう時期、この島での暮らしは終わりを迎えることであろう。今は、それが少し寂しいのだ。そんなことを自分が思うだなんてあの日は思っても見なかったのに。
ねえ、オーラン。君は僕にそう思える人間ができたことを知ったら喜んでくれるだろうか。
僕は、時々セトの外交についていくときに乗るくらいしか船のことを知らないのだけれど、やりたいと声を上げてみるとあっさり通ってしまった。いいのかそれで。船の名前は『蟹工船』、島のカニが幻覚作用等のある毒キノコ食べ天啓を得た時にそう呟いていたので拝借した。このカニはこれから作成予定の船の原型を作成した立役者なので、名を残すべきカニである。もし、無事に船が完成し、我々が元の場所へ戻ることができたその時には、この船を彼らのしばしの休息のために使ってほしいものである。
船といえば、僕が眠っている間に難破船がこの島に漂着したようである。すでに島民たちがあらかた物色を済ませた後ではあったが、よく見てみるといくつかの宝石や、もうこの世には居ないであろう者が遺した書が、その航海の過酷さを表すように散らばっていた。もしも、僕たちが造船予定の蟹工船が同じような目にあったら、そう思うと肝が冷える。船造りのためには正しい知識が必要である。荒廃しきった船の中を見て回るのもいい勉強になった。ただ、この船に乗船していた人々はどこへ消えてしまったのだろうか?謎は深まるばかりである。
そんなことよりも、どうしても書き記しておきたいことがある。
僕は今日、あの念願のチーズを食べることができたのだ。突然セトに呼ばれたと思えば、僕の掌には白くて美しいほろほろとしたチーズにカットされたぶどうが添えられた、それはそれは見栄えも良いチーズサラダが乗せられていた。
そう、僕は、チーズが大好きである。あの日、シシがチーズを見せてきた時から、ずっと食べたかったのである。それが僕の手の内にあるなんて!ああ、この喜びは誰にも伝わないだろう。本当に嬉しかった!
まるで宝石のようなその姿をうっとりと眺めてみれば、セトにきっと美味であろうと唆される。そんなの知っている!これがどれだけ美味しいのか!セトは料理を最も良い状態で提供してくる、つまりすぐに口の中に放り込み、味わうべきなのである。
そうして、念願の一口目を掬い上げ食べてみる。真っ白の美しいチーズは舌の上に乗せるとその形を崩していき、もろもろとした食感がたまらない。程よい爽やかな酸味とクリーミーな味わいに、付け合わせのみずみずしいぶどうが大変よく合う。美味である。食べる前からわかっていたことだが、大変美味である!味わいが単調にならないようにとふりかけられたブラックペッパーの香りと塩の塩味がより食欲を刺激する。まさかこれほどのものがこの島で食べられるなど!誰が思うだろう!本当に、本当に美味しくて、僕は夢中で食べてしまった。
気付けば、器の中身は空になっており、なんだか悲しみが湧き上がってくるほどであった。ああ、チーズ、もう一度口にしたいものである。
この手記を書きながらもあのチーズに思いを馳せてしまうほど、美味であったのだ……
忘れてはいけないことがあった。
僕は今日、十数年ぶりに他人と共に食事をとった。オーランやセト、子供らに召使い……奴らはまた別としての話だが。少年が小さな口でサクサクと食べ進めているクッキーに目を惹かれ、なんだか微笑ましく思い、良いものを食べていると声をかけたのが始まりである。きっと、僕が腹を空かせているのだと思ったのか、彼は残されていた一枚のクッキーを手渡してきた。普段の僕であれば絶対に拒絶して意地でも食べなかったというのに、少年のくれたクッキーは食べるのに抵抗がなかった。正しくは、怖くなかった。未開封のクッキー缶に入っていたというのもあるが、あの心優しい少年の手から掌に乗せられたクッキーは不思議と食べても良い気がして、気がついたら口へと運んでいた。サクッとした食感に、バターの豊かな風味が口一杯に広がる。
僕が食べている様を、少年は笑顔で眺めていた。あの、嫌な笑顔ではなく、嬉しい!と顔に書いてあるほど明瞭な笑顔だった。僕はあの夜、この少年と共に眠ってから、なんだかとても絆されているような気がする。この僕が滅多に外へ出ないというのに、再びクッキーを見つけて、共に食べるという約束をしてしまったのだ。
でも、それは嫌ではなく、なんだか、少し楽しみなのである。
もう時期、この島での暮らしは終わりを迎えることであろう。今は、それが少し寂しいのだ。そんなことを自分が思うだなんてあの日は思っても見なかったのに。
ねえ、オーラン。君は僕にそう思える人間ができたことを知ったら喜んでくれるだろうか。