Eno.91 シィリヤーレルの日記

虚像鏡【0-3 シィリヤーレルの虚像鏡】


【0-3 シィリヤーレルの虚像鏡】

  ◇

 “シィセス”の葬儀が執り行われた。
 姉さんの身体の中で、僕は
 馬鹿な姉さんの振りなんてしないで、
 賢い“僕”として振る舞った。

 それでも名乗りはあくまでシィリヤ。
 だってもう“シィセス”はいないのだから。

「シィセス王子の死から、
シィリヤ姫は人が変わったようになられた」


 周りの人たちは噂する。
 だけどその中身がシィセスなのだとは、
 みんな気付かないんだ。

 僕を王として立てて
 ちゃんと見てくれていたのは、
 厳しいお父さんと姉さんだけ。

 他の人たちはみんなかわいい姉さんに
 夢中だったから、変わった中身の
 正体になんて気付かない。

 姉さんとして、シィリヤーレルとして
 振る舞ううちに、僕は自覚した。自覚してしまった。

──“シィセサーテス”なんて、必要ない。

 “シィセス”が死んでも、
 お母様すら悲しまなかった。
 日常はすぐに戻ってきた。
 シィリヤーレルが次の王となることが正式に決まった。

 ずっと君になりたかった。
 君みたいに皆から愛されたかった。
 だけど、そうだ、当たり前だよね。
 君になったら僕なんて──
 “シィセス”なんて、必要ない!

 認めたくない。目を背けてた。
 あぁ、だけど聡い僕は分かっているさ。
 これが、現実!

 そんな中で、僕は思い返していた。

 あの日、姉さんが僕を殺したあの日。
 姉さんは確かに僕の死を悲しんで
 涙を流してくれていたこと。
 誰よりも憎くて大嫌いな姉さんだけは、僕を、

 首を振る。

 理解しない、理解したくない。
 僕はお前のことが大嫌いなのに、
 お前が僕のこと大好きなんてさ。
 いっそのこと、互いに憎み合っていれば良かったのに。

 あの無邪気な笑顔を思い出す。
 僕が乗っ取ってからは、
 この身体は偽りの笑みしか浮かべられなくなった。

 『シィセス』僕を呼ぶ純粋な声を思い出す。
 今、この喉が紡ぐのは嘘ばかりだ。

 鏡を見ていた。
 そこに映るのは僕ではなくて、
 姉さんの顔でしかない。
 誰よりも憎んでいた姉さんの顔が、
 僕の表情を浮かべている。

 それでも 君は 僕の
 半身 だったんだ。

 この憎しみが消えることはない。
 “シィセサーテス”も僕のこれまでの日々も戻ってこない。
 分かってる、知ってる。あぁ、あぁ!

「…………ッ」

 それでも君は、君だけは、僕を。

「…………あいしてるだいっきらいだ!」


 鏡を見ながら、僕は静かに嗚咽を漏らした。
 心が慟哭している。苦しくてたまらないや。
 ぼくは、僕は、僕は!!!!!

 君になりたかった。
 君のように愛されたかった。
 君になったらようやく愛されるようになったけれど、
 それじゃあ“シィセス”は癒えない。
 これは一生癒えぬ傷だ。

 哭いていた。

 さぁ明日も仮面を被って、
 “シィリヤーレル”は生きていくんだ。

 僕は、虚像しか映さない鏡。
 偽って嘘ついて、騙し切ってやる。
 もうそれしか、生き方はないのだから!