とある村と村人の話 4
魔王は領土を広げ、ト・ドゥワーラもすでにその支配下にある。しかし、むやみに魔族や魔物に手を出さない村の民を、魔族もまた傷付けることはなかった。
「……枯れた森で、魔物が暴れている」
海沿いの森は元より潮風によって少しずつ蝕まれていたが、魔族の流入が増えたことにより瘴気にあてられついにはすっかりと立ち枯れてしまった。
葉は全て枯れ落ちて、白骨を思わせるような幹だけが並んでいる姿を誰かがまるで木の墓場だと呟いた。
そんな場所で、魔物が暴れている。
「……俺がいく」
大柄な男が一人、手を挙げた。
村の若者が減っており、男は壮年だが村の中では若手に数えられる。
村では単純な人口の減少もさることながら、若者は村での日々を退屈だと言い、旅立っていく。
さらに、シークローでは兵を増強するために破格の給金を出すとのお触れが出たらしい事もそれに拍車をかけた。
ミシミシ……ズシン……
立ち枯れた木が、ひとつ倒れていくのを遠くで見つけた男は己の得物である斧をぎゅ、と握り直した。
おそらくその方向に魔物がいる。
息を潜め、歩を進める。枯れ草を踏みしめ、距離を縮める。
「……あ、」
ようやくその姿がはっきり見えるほどの距離まで来て、男は我が目を疑った。
「お前……」
見間違うはずがない。その表情の機微さえわかる程、共にくらしてきたのだから。
「……なんで」
魔物の雄叫びが響き渡る。
男は斧を構えもせずき呆然と立ち尽くした。
びゅん、と風を引き裂く音。
枯れ草の上に飛び散る鮮血。
顔に走る痛みと熱。
「わからないのか、俺だ。ローガーだ。俺はわかるぞ……お前は……お前は……!」
だらだらと流れる血を拭う事もせず、別れた頃は同じだった筈の目線あげて、魔物に訴えかける。
「……ギッ、……グオオオオ!」
魔物は一瞬たじろいだが、すぐに大きく唸り声をあげる。だが、そのまま男を襲うことはなくその場から走り去っていった。
「あっ……! そっちは……!」
魔物は木をなぎ倒しながら去っていく。その先には村がある。
「ぐっ……!」
追いかけなければ、そうは思うが顔の傷が痛み、足が止まる。魔物の一撃は決して浅くは無い。皮と肉が剥がれていれば、もっと危うかっただろう。
服の布を雑に破いて顔にきつくあてがう。みるみる赤く染まるのを目の端に捉えながらも、男は村へと急いだ。
「……そんな」
なんとか村にたどり着いた男が見たのは、魔物が暴れて壊れた家屋と、大小のけが人たちの姿。
「お前もあの恐ろしい魔物に襲われたのか!」
「え、いや、あいつは……」
「無事でよかった、こちらはなんとか追い払うことができたが……家畜もやられてしまった」
男を見るや村人たちが駆け寄って口々に話しかけてくる。治療を受けながら男はついにあの魔物がかつて共に暮らしたものだとは言えなかった。