Eno.428 村人の日記

とある村と村人の話 5

「勇者一行だって? 勇者はまだしも、仲間はまだ子供ばかりじゃないか」
「あのエルフは金勘定ばかりで……商人なのか?」

村は外から来た人間には冷たい。
それが、勇者と名乗らなければ村の中にいれたかも怪しいくらいに。

あれから、何度か魔物は村へとやってきた。家畜の味を覚えたらしく、そのたびに村人達で追い払ったが、討伐には至らず被害はじわじわと広がり続けている。
魔物はいつしかオソと呼ばれ、村は終わらぬ戦いに疲れ切っていた。
そこに現れたのが勇者一行だ。

「勇者と言うなら、あのオソを倒してもらおう」
「もし倒せなくても、少しは手傷を負わせてくれるだろう」

村人が疑いつつも、この戦いを終わらせてくれるなら誰でもいいと言わんばかりに勇者の力をあてにしはじめた。
勇者一行はそれを嫌がることもなく、引き受けた。

「……俺が案内する」

男は、勇者一行の中に馴染みの顔がいたこともあり、案内をすることになる。
立ち枯れた木の墓場の一部がオソの巣になっていた。

「……俺も、一緒に戦っていいだろうか」

ただの村人が役に立てる事と言えば囮くらいだろ。それでも、かつて共に暮した者の相手を他人任せで終わらせることはしたくなかった。 
結局、男以外にオソの正体に気がつく者はいなかった。

(……もう、苦しまなくていい)

このあたりで魔物が狂暴化する事は少なくない。瘴気が原因だと言われているが、医術も魔術も詳しいものがいない村では解析することは不可能だった。
だから、こうする事がオソ――否、かつて共に暮した家族にできる唯一のはなむけだ。

もう、魔物は男を見てもたじろがない。それは、魔物の理性が本当に失われたことを意味している。

「おおおおお!!」

男が渾身の体当たりを魔物にぶつけ、僅かにできた隙に勇者の剣が閃いた。

いつか聞いた時と同じ、悲しげな鳴き声が空に響いて、魔物はゆっくりと地に倒れ伏した。

「……」

男は倒れた姿に小さく謝罪の言葉を呟いた。