Eno.501 獣の四天王の日記

人間における魔物の認知と、その処遇について

───小生は、魔物でありながら人間の"言葉"を理解できる魔物だった。

構音器官も人間のそれと近く、或る程度の訓練を積み重ねれば、
人間のそれと遜色ない程度には扱えるようになった。

言葉を学ぶうちに、小生は人間の思考法や道徳、倫理、作法を知るようになり、
次第に小生は文化的な生活とかいうものを真似するようになった。


小生は、人間という生き物を、より理解したいと考えるようになった。

言葉が理解できる魔物であると気付いてから、すでに数十年の月日が
経過し、人間の営みにもある程度の理解はあったと自負していた。



───小生は、人間との対話を試みた。

まるで太陽にでも届きうると慢心し、海面に落ちて溺死したイーカロスの
寓話を宛らだった。




以来、小生の人生で、あれほど自身の蒙昧無知さを呪ったことはない。




「……随分とよく回る舌だな。どこで学んだ?
 そうやって、人間の真似をして、我々を油断させるのだろう」


「違います!小生は、ただ、貴殿らと対話を……」


魔弾装填!一発たりとも外すなよ。この弾、高ぇんだから……
 恐らく、相当ランクの高い魔物だ。目の前の的は金塊だと思え!」


「落ち着いて話を聞いてください!
 小生は貴殿らに危害を加える気は───」









───そこから、雨の如く弾丸を全身に浴びた。生まれて初めて経験する激痛に、
小生は困惑と、後悔と、失望を覚えた。



生まれついての体格に助けられ、魔弾だけでは仕留めきれないと判断した魔法使いの男は
殺処分を諦めたらしく、呪いの手枷を小生の両腕に嵌めた。






「……無駄に手間とらせんな、クソ牛の魔物が。
 御者の爺、モタモタすんな!アッバーシリの監獄迷宮まで飛ばせ」



乱暴に狭い竜車の中へ押し込められた小生は、そのまま遥か西の
アッバーシリ監獄迷宮と呼ばれる魔物収監施設へ送られた。



「…………」







───そこでの経験は、かなり曖昧で殆ど覚えていない。
少なくとも、地獄であったことだけは言うまでもなかった。