Eno.811 学者の日記

愛のこと、妖精のこと

 「貴方は良いから。さ、自分のお部屋で勉強してらっしゃい」

 3歳の頃、両親が僕の能力に気付いた日から、我が家には完全分業制が導入された。
 父親は笑顔を貼り付けてお金を稼ぎ、お偉い方々を歓待してコネを作っていた。
 母親は暗い台所でずっと家事をしていた。
 僕は父親を労ることも母親を手伝うことも許されずに、ひたすら高価な本を読み漁っていた。……あ、そこまでは前回話したっけ。

*

 僕はずっと勉強をしていた。お手伝いサポートをすることすら許されなかった。
 それが家族全員の願いであり、一族の悲願のためであったから。
 どうやらうちの家族は揃って根気強い家系らしく、誰も音を上げなかった。だけど内心、『家族ってこういうもんだっけ?』という疑問が僕の心の底に堆積していった。
 それは僕だけが感じてることだったかもしれないし、家族全員が抱えていたものだったのかもしれない。
 だけど、僕にはそれを聞く勇気も自分から壊す度胸もなく、そもそも自分が何を欲しがっているのか、それすら分かっていなかった。

*

 勇者パーティは僕にとって仲間ごっこ、家族ごっこだと言った。それは建前。
 実際は、家族との間でやりたくても出来なかったものを模索するチャンスでもあった。
 自分が一から構築した関係であれば、対等に話が出来る。見えてくるものもある。僕はそれに賭けた。

 実際それは上手くいっていた。この島で生活するようになってからは特に。
 例えば、家事のお手伝いをすると、妖精が少し嬉しそうな、でも少し困った顔をした。
 勇者が獲ってきた魔物を料理すれば押し付け合いながら皆で食べた。
 神官が妖精からげんこつを喰らうのを指さして笑ってた。
 そんな些細な日常が、僕は嬉しかった。

 ここでは無理してwin-winの関係を作らなくていい。
 身近にあることを分け合って、お互い様、even-evenになればいい。
 そしてそこに生まれるのが、きっと愛の騎士の言うところの"愛"ってやつなんじゃないだろうか。





 そんなことを感じ始めたある日。

 妖精は僕らの仲間からの離脱を宣言した。