Eno.1072 剣士の日記

『無題』

魔王の打倒は人類の悲願だ。

そして何があろうと今までの戦いがなかったことになるわけではなく、
聖剣の奇跡が起こったからといって、
それですべてが解決するわけではない。

それを善しとしない者もいるだろう。


当然、俺もそうだ。


俺は、勇者が戦いをやめてしまうことを一番恐れていた。
だが……奴の言っていることは、そういうことだ。

戦わずして終わるということは、これ以上の被害が出ないということになる。
そしてそれは、敗北でもない。なれば、論理的に考えれば、否定する理由はない。


だが、今更そう簡単に引き下がれるのか?

そんなわけがない。
戦い抜くことを誓い、ただ剣を振るい、戦い続けた俺に、
そのような形で得た平和を受け入れることは、到底不可能だ。



戦わずして終わろうというのか?
戦わずして――?

では俺の剣はなんだったんだ?
俺の今までの戦いは?
魔王を倒すためだったんじゃないのか?
なぜ決意を聞いた上で、そのようなことを言った?

俺たち……
いや、お前は全ての人類の希望ではなかったのか。


言葉は出かかっていた。



しかし、その時勇者は……
かたなに殴られていた。

恐れを吐露し、仲間たちへ、共にあることを求めた。
あの勇者が。

俺の言葉は飲み込まれた。

……ああ、そうだ。分かっていた。
あいつは前に進む強さを持っているが、
俺はそこまで強くないのだ。


大体にして当然、奇跡が起こったところで、
その後のあらゆる問題に懸念があるなどということは、勇者とて理解のうえなのだ。
あいつの覚悟は、そのすべての問題に立ち向かうということだろう。
それは恐らく、眼前の敵をただ打ち倒し、戦いを終わらせることよりもよっぽどに重い。

ならば……、

味噌バターの生まれ変わりだか知らないが、
俺と大して変わりのない年頃でいて、
その身に重すぎる荷物を背負い、
死をもって自分と戦い続けてきて、
全てを理解したうえで……、
そんな奴が戦いの果てにようやく出した答えに対して、

俺がそれ以上、何を言えようか。

……。

人生をチップにした賭け事はガラじゃないがな。
あいつに張る価値はあるのだろうな。






……。


副産物ってなに?

副産物ってなに?