戦士
――俺は、強くなりたかった。
強くて大きなものになりたかった。
それは天に輝く星のようなもの、闇夜に瞬く希望。
あるいは、暗い水底に揺蕩う光。
この世界には、勇者と魔王が存在する。
俺はそのどちらでもない。
俺は、戦う者……戦士だ。








覚えている限りではこれが家族との最後の会話だった。
なんてことはない、自然と共に生きるエルフの小さな漁村で、漁師の家に生まれ、
魚や貝をとっては加工して売りに行く。
穏やかで他愛ない日々が、ずっと続くと思っていた。
その日だ。
強大な魚が全てを飲み込んでいったのは。
緑と湖水の青が美しい故郷は、どす黒い土砂に潰れ、
嵐によって家々も森もなぎ倒され、濁流があまねく景色をさらっていく。
まさしく天災だった。
魚と形容するよりも、生きる嵐というべきだろうか。
きっと、天候を操るという竜と言っても過言ではない。
青みがかった褐色と、銀色の姿が暴風と竜巻、
大波と飛沫の最中を悠然と泳ぐ。
それは巨大な顎をもって、山をも飲み込む。
それは強靭な鱗をもって、生半可な刃を通さない。
それは雄大な身でもって、海に通じる湖の頂点に立つ。
畏怖され崇敬されてきた守神にして、
古代の断片と大いなる水の権能を受け継ぐ魔物。
怪魚は、ただ生きていて、身じろぎをしたか、息継ぎをしたか。
たったそれだけのことで、俺の故郷は脆くも崩れ去った。

……強く。
強くあらねばならない。
俺が強ければ、戦って、あの怪物の息の根を止めて。
みんなを助けられたはずだ。
その日、俺は槍を手にした。
少し重いが、よく手に馴染んだ。
きっと、俺にとってはこれが一番、天に届く。
強くて大きなものになりたかった。
それは天に輝く星のようなもの、闇夜に瞬く希望。
あるいは、暗い水底に揺蕩う光。
この世界には、勇者と魔王が存在する。
俺はそのどちらでもない。
俺は、戦う者……戦士だ。

「おれ、大きくなったら竜になりたい」

「私は魚になってほしいな」

「なんで?竜のほうがつよくてかっこいいだろ」

「お魚になったら、生で良し煮て良し焼いて良しだから」

「我が姉ながら食い気に溢れていて怖い」

「ウフフ、そうかしら?照れちゃうわ」

「ほめてないほめてない……時間だ、そろそろ行ってくる」

「いってらっしゃい、イーサン」
覚えている限りではこれが家族との最後の会話だった。
なんてことはない、自然と共に生きるエルフの小さな漁村で、漁師の家に生まれ、
魚や貝をとっては加工して売りに行く。
穏やかで他愛ない日々が、ずっと続くと思っていた。
その日だ。
強大な魚が全てを飲み込んでいったのは。
緑と湖水の青が美しい故郷は、どす黒い土砂に潰れ、
嵐によって家々も森もなぎ倒され、濁流があまねく景色をさらっていく。
まさしく天災だった。
魚と形容するよりも、生きる嵐というべきだろうか。
きっと、天候を操るという竜と言っても過言ではない。
青みがかった褐色と、銀色の姿が暴風と竜巻、
大波と飛沫の最中を悠然と泳ぐ。
それは巨大な顎をもって、山をも飲み込む。
それは強靭な鱗をもって、生半可な刃を通さない。
それは雄大な身でもって、海に通じる湖の頂点に立つ。
畏怖され崇敬されてきた守神にして、
古代の断片と大いなる水の権能を受け継ぐ魔物。
怪魚は、ただ生きていて、身じろぎをしたか、息継ぎをしたか。
たったそれだけのことで、俺の故郷は脆くも崩れ去った。

「…………」
……強く。
強くあらねばならない。
俺が強ければ、戦って、あの怪物の息の根を止めて。
みんなを助けられたはずだ。
その日、俺は槍を手にした。
少し重いが、よく手に馴染んだ。
きっと、俺にとってはこれが一番、天に届く。