光明
夜の闇の中、遠くに見える光をじっと見つめる。
建設したばかりの灯台は、問題なく機能しているようだった。
建てた場所は拠点からは離れた岩場だが、苦労して石を高く積み上げただけあって、この場所からでもちゃんと見える。
『大丈夫みたいだな』
いつの間にか横にいたヤヤウィクが、ぱたりと尻尾を動かして言った。
資材を運ぶのも重労働だっただろう。
労いの意を込めて、ブランクスは黒い獣の背中に手を乗せた。
そのままわしわしと強めの力で撫でてやる。
『あー、もうちょい右……そうそう、その辺。ちょうど上手く足が届かないんだよな』
どうにもむず痒いところがあったらしい。
いつも通りのその様子に、ブランクスは小さく笑うとそのまましばらく黒い毛並みを撫で続けた。
やがて気が済んだのか、ヤヤウィクがふるふると頭を振る。
全身をぶるりと大きく震わせて、落ち着いたのか、その場にぺたりと座り込んだ。
『なんかあったか?』
「なにが?」
『なんにもないならいいけどさ』
ぺろぺろと毛繕いを始めたヤヤウィクには、深く突っ込もうという気持ちはないらしい。
ブランクスも隣に座って、手持ち無沙汰にくるくると髪の毛で遊び始める。
「なんにもないけど。やっと戻れるな、と思って」
ややあって、ブランクスがそう呟いた。
ぴくりと耳を動かして、それでもヤヤウィクは更に話を促すことはしない。
ブランクスも、それ以上深く話す気はなかった。
ただ相棒には、何を考えているかくらいは、伝えておくべきだと思ったから。
「戻ったら……いや、一度、実験室に帰ろうと思う。
アリアドネの検査もしないといけないからな。
大した時間はかからないだろうし、またすぐ戻れるとは思うが。
お前も、それで構わないか?」
口調が少しずつ、皆が知る【魔術師】に戻っていく。
少しずつ少しずつ、元の生活に戻るために。
イレギュラーを抜け出し、再びあの迷宮に戻るために。
『おれはいいぞ。言ったろ、野性的な肉にも飽きたって。
パスタとジェラートとハンバーガー食べたい。
あとコーラ。コーラが飲みたいんだよな』
毛繕いを終了して、ヤヤウィクは待ち遠しい様子で大きく口を開けて欠伸をした。
大きな獣が、ブランクスに寄りかかるようにごろりと丸くなる。
「そうか。なら、帰ったら注文しておくか」
『おう。よろしく頼むぜ』
ブランクスの手が再びヤヤウィクの毛並みを撫でる。
灯台の明かりが暗い夜を照らしていた。
もうすぐ島が、海に沈む。
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