Eno.817 七曜の日記

 

 まさか海辺で異界への渡航を試してたとは家族に口が裂けても言えない。
 しかし、辿り着いた先でこのような記録が拝めたのは幸運だった。
 これは、この島の仲間達が解読してくれた数多の記録の中から、
 特に気になった物を抜粋した記録である
空繋ぐ機装魔導師 七曜

 全文の書き写しは女王さんがやってくれるらしいから、ね



・未知の記録α
"天の使いが一人、空から舞い降りた。
天の使いは何もない一面の陸に水を与えた。
天が与えた水は、恵みと共に力を与えた。
恵みが生命を生み、力が文明を興した。

それが、この世界の始まり。"



・未知の記録ω
"天の使いが与えた恵みで暮らす民。
しかし、民はより大きな力を欲してしまった。

大いなる力を求める民に、天使は大いなる恵みを与える。
かつてのように、水という形で。

それが、この世界の終わり。"




・未知の記録ξ
"今日も狭い島国の街で研究を行う。
かつて在ったと言われる文明の遺物を読み解き、この地の根源を探る。

この広大な海も、陸の資源に乏しいこの土地も。
この地の歴史を紐解けば、きっと見れると信じている。"



・未知の記録ο
"海は恵みをもたらすと共に、奇跡にも近い力を我々に与えた。
海水の魔素を結晶へと昇華し、それに意思を込めて起動する。
込められた意思に依って万様に変わる奇跡の数々。

魔なる海の力の技術を我々は『魔術』と呼び、奇跡を人の御せる形へと下ろした。
そうしてこの国は栄えてきた。

この力は強大で、そして尊いものだ。決して軽んじてはならない。"



・未知の記録π
"王室が魔術を用いて得体の知れない術を生み出したらしい。
『世界の外』から叡智を呼び込む魔術だそうだ。

科学者、魔術師、巫女、知恵者……
異界の知恵者が王室から出てきたのを覚えている。

うちの工房にも考古学者を当てようかと伺われたが、丁重にお断りした。"



・未知の記録ρ
"国内のとある街が魔術兵器によって焼け落ちたらしい。
聞けば術師と科学者が袂を分けて戦争になったとか。
愚かな話だ。ただでさえ狭い土地だというのに……

……轟音で研究に集中できない。
家内に話を通し、地下に工房を作製するとしよう。
しばらく忙しくなりそうだ……"



・未知の記録σ
"戦火の炎と焼け落ちた家屋が目に映る。
地下の工房にいる合間に、魔術の砲火が地上を薙いだらしい。
突然の出来事で避難の余裕もなかったそうだ。

そんな中、行き場のない感情が研究中の術式にアイデアをもたらしてくれた。
もはや縋るものもないオレにできることは、ただひとつ。"



・未知の記録τ
"様々な研究資料を持ち出して、引っ越しを終えた。
いつの日かも分からない研究レポート。
誰が録ったのかも分からない音声記録。
部屋にあった資料、知人伝いで得た資料。

そして――王家に伝わる『世界の外』へ干渉する術式の一部を盗んだ。

できることはした。後は実行するだけだ。"



・未知の記録υ
"術式の完成を急ぐ。
あとはこの術式さえ完成すればではあるが、もはや研究を継続するのも一苦労だ。

体の傷が痛む。
だが、戦火が与えた痛みはこの比にはならないはずだ。

最後のピースをはめて、オレはしばしの休息をとる。"



・未知の記録Φ
"この地はやがて海へ沈むだろう。遠い未来に訪れた者達は、この寂しい海に何を思うだろう。
……せめてもの賑やかしに、術式の中にお遊びを仕掛けておいた。
所詮はハリボテには過ぎないが……"



・未知の記録χ
"……この海にもう未練はないが。
それでも、未来のことを考えてしまう。

閉じた海を選ぶか、開いた海を選ぶか。
この世界をずっと見てきた海の選択に思いを馳せる。

ただ、誰もいなくなった遠い未来であっても、
穏やかなこの海は広がり、静かに波音を立てているのだろう。"



・未知の記録ψ
"術式を起動し、世界との隔壁を壊した。
亀裂が水平線を走り、海のかさが目に見えて増えていく。
実験は成功した。

これで全ての因果は終わる。
かつての遺産に縋って権威を争う、醜悪な人間どもの文明が。

海に埋もれて終わったはずのこの世界は、異なる海と繋がり、再び終わりを迎えるだろう。
これでいい。オレの役目は果たした。

海開きだ。"




 書き記し、私はため息を漏らした。
 術師と科学者の対立、私のいた世界でも歴史書によく書かれていたものだ
 ……私の世界の『魔術』は魔法を模した科学なのだが、色々あるらしい

 それにしても、魔科学戦争。戦火によって壊れた研究者か。
 私は、この青年を他人のようには思えなかった