Eno.937 吟遊詩人の日記

『違和感』

 
…なんだか最近、彼の様子がおかしい。

何かを考え込んでいて、呼び掛けにも応じなかったり。
前触れもなく立ち上がったり、何かを呟きながら意味もなくその場を歩き回ったり。
「どうしたの?」と問うても、曖昧な返答で誤魔化されたり…。

そんなことが、日に日に増えていく。


原因はなんとなくわかってる。
きっとあの災厄のせいだろう。


彼が悩んでいる間、同じように私もずっと悩んでいた。
「どうすれば良い?」
「どうすれば彼は悩まずにいてくれる?」

そんなことを、来る日も来る日も考え続けた。


















───そんな、ある日。
私が解決策を出す前に、悩みの日々は終わりを告げることになる。


『…×××××、ごめん。僕は旅に出ようと思う。
 この世界が、今どうなっているのかを…確かめたいんだ』



彼からの告白は突然だった。
その上、私をこの場所に置いていくつもりなのだと言う。

「何故?」と。
「連れていってはくれないの?」と、何度も訴えた。
それでも彼の答えは 何度聞いても変わらなかった。 
変えてくれなかった。


『危険な目にあわせたくない』


×××××に何かあれば、僕はきっと後悔する』


『だから比較的安全なこの場所で、待っていてほしい』



…聞こえの良い言葉ばかり。
心配してくれているのはわかってる。
きっと、私を大切に思っているからこそのモノなんだろう。

でも。
私だって同じように 彼を大切に思っている。
危険な目にあってほしくないのなんて、私だって同じだ。


それを伝えて、もう一度交渉したけれど
それでも彼の決意は揺るがなかった……。





だから私は ささやかな抵抗の意を込めて、
「それなら約束をしよう」と 彼に提案したのだった───。