鬼 - 参
……なんと………
…………呆気無い……──……幕切れか………─────
嵐の日だった。

戦を駆け回る傍ら、実は鬼はあの日敗北を喫した人間と二度目の対面を果たしていた。
奴は、名乗る名の無いしがない浮浪人であると自身の身の上を明かした。
本当にあけすけに明かしたと言えるかどうか、鬼には確認しようもないが──
ともかくその浮浪人は、初めて己を打ち負かした時と同じように、笑っていたのだ。
季節は春。
その日の空模様はすこぶる荒れており、木々は枝葉をけたたましくぶつけ合い、山は剣呑とした雰囲気だった。
そんな中、唐突に病に冒されていると告げられて、呆気にとられたのは仕様がない。
何故今その話をしたのかと、当惑しながら刀を抜くと、
鏡合わせのように、奴もまた、笑みを深めて構えを取った。
──激痛を抱えておいて、こうもしぶといのか。
以前よりも更に磨きがかかった、気迫のある剣筋をしている。
けれどその頃には、鬼にもその趣が感じ取れるほどになっていた。
動きが読める。体が付いていく。……いや、追い越している。
壮烈な剣戟は、それほど長くは続かなかった。
浮浪人の斬撃を躱して、鬼が一歩踏み込み、その拳で得物を弾く。
──取った。
鬼の切先は浮浪人の胸の中心をとらえ、確かに届いた。
……── ───
最期にそう言い残し、事切れた奴に、思わずため息が漏れた。
──なんと、呆気ない幕切れか──。
人の身で真正面から鬼を押し切る力を持っていながら、病魔にその未来を閉ざされた、憐れな男。
たかだか人間の短い命で至れる境地など知れている。
だが、己のすべての切っ掛けとなった男がこの程度だったと知って、拍子抜けしたような、ガッカリしたような、虚脱感に襲われた。
「………この程度か。」
ここに、これ以上用はない。
刀を抜こうと、意識を切り替え──
気を抜いた、瞬き一瞬、
寒気が過った。
「────────ッッッ!!!!!」
既の所で身を引いたが、反応が僅かに遅れる。
痛みより先に、熱さが首に伝う。触れれば、指先は、雨ではない、ぬるいものを掬う。
この豪雨の中、早く止血しなければ命に関わるほどの傷。
見れば、奴の手には懐剣が握られ、その腕は鬼を切り裂くかたちを取りながら、冷たく硬直していた。
今になれば分かる。
奴は、戦の中で散ることを本望としていた。
しかし、いざその時が来て、意識を手放す瞬間──
最期の最後で、染み付いた執念が奴を無意識下で動かしたのだ。
こいつは己と同じだった。
一度目は鼻頭に傷を付けられ、
二度目は喉笛を切られた。
人の身でここまで至った豪傑よ。
貴様の生き様、天晴であった。