Eno.378 白波の眷属の日記

夜のさざめき

小屋に落ちている貝殻を耳に当てると、かすかに音や会話が聞こえる。

雨の音。稀に、夜半の森にいるであろう獣の叫び声。
ふたり分の機敏な足音と、泥が跳ねる音は、雨音に紛れてほんの僅か。



「笑っちゃうくらいうまくいったスねえ。
 最後、あいつの顔見ちゃいましたよ。ぜーんぶなくしちゃってかわいそう、ハハ」



「騒ごうとするからああなる」
「まだ終わりじゃないぞ」「巡礼路だから、あと八軒はあるな」



「ひえー」「重労働スねえ」
「金目のものに銀燭台にパンに……スープも飲んでいきゃ良かったスかね」



「飲んでも良かったな。ひっくり返らなきゃ」
「重労働ったって、奴隷と比べたら天地の差だろ」「自由な世界を、おれたちの腕一本で生きられる」



「さーすが」「一生着いて行きますゥ」
「……っとォ、危ねえ。落とすとこだった」



「そいつを落とすなよ」「それがあるから、この道の家はのこのこ・・・・と扉を開いてくださるんだ」
「つらい巡礼に耐えるための助けと、あつい信仰の末の奇跡を与えてくださるのさ、ッフ」



「お見事な奇跡スねェ。たしかに、あんなあったかいパン久し振りに食いましたもん、フハッ」
「薄汚れた貝殻、ぶら下げてるだけなのになあ。愚かな信徒の皆様に感謝……あ、」



「何だ? 斧でも忘れたか」



「いや、思ったんスけど……もし次来た時に、信徒どもが警戒しちまって、
 こいつ貝殻を持ってても無条件で入れないってことになったら。
 この仕事、長く続けられないスよね」



「ああ」「だろうな」「狩ってくれと言うようなもんだから、扉に印を掲げる家も減るだろうよ」
「ま、だからその前に狩れるだけ狩るのさ」「月が出る前に、稼がせてもらおうぜ」



「へーい」「貝のお守り様様っスね」



「さしずめ、強奪白波のお守りってところだな」
「おかげでおれたちのような者も、こうして幸せになれるって訳だ」「心の底から感謝だよ」















…… …… ……

だれかが、あなたの肩へ手をのせた。労わるみたいに、ひどくやさしく。

……

……やっぱり気のせいだったかも。