Eno.501 獣の四天王の日記

人間における魔物の認知と、その処遇について(続)

───その人間は、辺境伯を叙された地方の貴族らしかった。

自尊心がすこぶる高く、易怒性えきどせいで魔物どころか動物さえ
虐殺して悦びを覚えるような随分歪んだ性格だった
ので、小生でさえ彼を知性の欠片もない動物だと思った。

人格はとても褒められたものではなかったが、
唯一魔法だけ・・は覚えが良かったのか、
小規模部隊の指揮官としてエゾデス各地を巡り、
魔物を討伐しては生計を立てていたようである。

小生は丈夫な体に恵まれこそしたものの、
魔力というものに対してはとんと免疫がなく、
こと魔法や呪具のような縛りに対しては無力だった。


捻くれた魔法使いは、引き連れた部下にしたり顔で
得々と語る。

「これから、アッバーシリの監獄迷宮に向かう。
 何を隠そう俺はその監守という訳さ。
 いわゆる個人所有のダンジョンだが、中では
 呪いの手枷をした数百匹の魔物を飼っている・・・・・
 ……そう、そこで弱った奴を殺し、
 俺は経験値を稼いでいるのだよ」



迷宮自体が複雑であるだけでなく、呪いの手枷と
結界魔法によって、魔物は内側に閉じ込められ、
決して脱出することはできなかった。





小生は、ここで死ぬのだと悟った。











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「お前が、このダンジョンのあるじか」



数十年を経て、魔物の呻き声以外の"言葉"を聞いた。
体は瘦せ衰えて見上げる気力さえ湧かなかったが、
凛としたその"言葉"は、若々しい女性のようだった。

「…………いえ、あるじは人間の魔法使いでございます」



久しぶりに発する"言葉"に、喉が震えた。

「あの傲岸な男がそうだったか」


「…………お会いに、なられたのですか」


「殺した」




───そこで、初めて、小生は尽き果てる寸前の力を
振り絞って、おもてを上げた。



















───窪んだ眼窩が捉えた、その神々しい御姿を
小生は生涯忘れることはないだろう。

ただ、一心不乱に、小生は麾下となりたい旨を力説した。


……神は少し困惑したように、隣の人影に助言を仰いだ。



「……小生の命は、いわば余暇でございます。
 夢幻の様なものでございます。

 陛下の見る夢がもたらしたものなのですから、
 その使い所はとうに定まっております」