Eno.15 トト・アズハル・イルファンの日記

トトの手記20

※この手記を書き記しているときの僕は、非常に体調が悪かった。
あとで読み返す際に、出来の悪さに対して決して怒るのではないよ未来の僕よ。過去の自分が酒を浴びるように飲んだことに僕だって怒っているのだからね。



 今晩は快晴、とは言えなかったがは無事に止み、花火大会は予定通りに開催された。

 空模様は花火に最適とは言えないが、救難信号を送るという真の目的があるため筒がなく進行されたのである。花火の設営のために、何度も何度も倉庫と砲台を行き来していたシシはなんだか嬉々として見えて大変愉快であった。セトの上によじ登り、花火が打ちあがる瞬間をソワソワとしながら待っていて、その姿はなんだか愛おしかった。

 そして、この時の僕は、数発だけ打ち上げて残りは天候が落ち着いてきてから上げるものだと思っていた。救難には数発で事足りるのでは?という考えだったのだ。


 だが、この島の打上師はその程度では物足りないらしかった。


カウントダウンと共に発射されたのは9連発の花火。どんどん打ち上げてられていく花火を見たセトは「イカれている」と言っていたが、本当にそのとおりである。念のために耳を塞いで待っていたのだが、爆撃に遭ったかのような壮絶な爆発音に僕の体が飛び上がるほど心臓が跳ねた。このシシ、誰よりもこの瞬間を心待ちにしていたのではないか?
 それでも打ち上げられた数々の美しい花火は、辺り一面の空を燃ゆる花びらで埋め尽くし、曇天であることを忘れさせるほど美しかった。あれは本当に良いものであった。
 あの宮殿から見える花火は非常に退屈であったのに。この島の花火は何度見ても、素晴らしく、美しいものであった。あの色とりどりの大輪が咲き誇る空を、僕は決して忘れないであろう。一つわがままを言うとすれば、この光景をオーランと共に見たかったものである。

 その中でもひときわ僕の目を惹いたのはひっそりと夜空に煌めく白銀色の花であった。僕が産まれた時、産まれなおした時愛おしい人々が、僕のことを想い贈ってくれたランプの光によく似ていて……僕は、ゆっくりと熱を失い、キラキラと地上へと降り注いでいくそれが、光を完全に失う瞬間まで、最後まで見つめていたのだ。


 そこからの記憶は、久々に酒を飲んでしまったので非常に曖昧である。
 目が覚めた時、頭痛と吐き気に襲われたあたり少々飲み過ぎてしまったことは確かなようだ。周囲の大人共も大変酒臭く、羽目を外しすぎたのだろうと簡単に見て取れる。
 打ちあがった花火を見て、空をはじめとした子供や島の住民が皆が喜んでいてうれしかった。僕の作ったカニとうさぎの花火が完璧に打ちあがった時は、なんとも気分が高揚した。あの時の僕は大層機嫌が良かったであっただろう。空に輝くあれらはとてもシュールだったのだが、皆が楽しそうでとても気分がよかった。唸りを上げながら作り上げた甲斐があるというものだ、打上師の腕が良かったのも大変幸運であった。

 僕は少しでも良い思い出を作ることができたであろうか?

 積極的に打ち上げを担当してくれたシシには感謝する。皆が楽しそうに食事を振舞ったり、酒を飲みかわす光景は、何とも愉快で、セトと一緒に食してみたりもした。本当に楽しかったのだ。
 ただ、花火大会の主催者がこの時は不在であったことに、僕は少し寂しさを感じた。もし、次に花火が上がることがあれば、その時は彼女とも同じ空を見上げたいものである。
 オルテンシア
がいなければこんな思い出は生まれなかったのだから。それでもこの催しはこの島が沈む時まで行うつもりらしいので、どこかで機会があるであろう。


ーー追記ーー


 目覚めた時、うさぎの描いた似顔絵が展示されていた。
皆の特徴をよく捉えており、誰が誰なのか一目瞭然の出来の良いものであった。書置きにも時々描かれていたが、あのうさぎは随分と可愛らしい絵を描くものだ。
空といい、うさぎといい、この島の子供らは芸術的素養があるらしいな。


それから、花火の打ち上げ方を後でこっそりとご教授いただく必要があるだろう。