浮橋
……遠くに汽笛の音が聞こえる。
以前聞こえたものよりも、はっきりとそうだとわかる音だった。
船がどこかにいるのだ。
狼煙を上げたり灯台を建てたり、いろいろやってみたのは無駄にはならなかったらしい。
このまま待てば船に拾ってもらえるだろうという確信は持てた。
だから後はこのまま無事に、船が来るまで過ごせばいいだけなのだが。
『……どーしてもあそこに行かなきゃならないわけか?』
ヤヤウィクが呆れたように言うのを、ブランクスは完全に無視して作業に没頭していた。
木材を組み、浮きをつけたイカダを繋いで、海の上に浮かべる。
そうして出来上がったのは急拵えの、かなり粗末な浮桟橋だった。
かなり粗末ではあるが、泳ぐよりはずっと安全に海を渡ることが出来る。
目的は島のすぐ隣にある小さな離島だった。
今はその海岸に、船らしきものが座礁している。
「だって、気になるだろう。気になるものをそのままにして帰るなんて、健康に良くない」
『なんだその理屈。魔術師は好奇心を満たせないと体調悪くなるのか?』
「それくらい、好奇心は大事にしろってことだよ。……よし、大丈夫そうだな」
完成した浮桟橋に、実際に体重をかけてみる。
浮かべているだけだから少しぐらぐらするが、渡るのに問題はなさそうだ。
『ほんとに行くのか〜?』
「行きたくないなら待っていればいい」
『そんなこと言うなよ。しょうがないな、何があるか見に行くか』
そう言うとヤヤウィクはそりを引いて悠々と浮桟橋を渡って行った。
そりごと渡れるのであれば、思っているよりずっと頑丈そうだ。
ブランクスも後を続いて離島に渡る。
こちらの島とは植生が異なるのか、少し見て回るだけでもまだ見たことのない植物がたくさんありそうだった。
「キリアンに見せたら喜ぶだろうな」
クールなように見えて自分よりもずっと好奇心の強い異母兄のことを思い出す。
未知の世界の未知の植物なんて、渡したらきっと静かに興奮することだろう。
「……あいつも、……」
喜ぶだろう、きっと。
珍しいものが好きだったから。
知らない場所や、知らないものが好きだった。
自分以外の世界をたくさん知りたがって、だからあいつも、きっと。
『どうした、ブランクス』
少し離れた場所からヤヤウィクが呼びかける。
「なんでもない、行こう」
歩を速めて獣のそばに駆け寄って、ブランクスは散策を続ける。
この世界にいられるのも後少しの時間だ。
彼を満足させられるくらい、珍しいものが見つかるといいが。
.