Eno.809 黄鵞ハトリの日記

闘鴨の書:十六の巻

夜明け前に花火を打ち上げるという話があった。
花火作りに興味がある者もいよう。なるべく多くの者が花火を作れるように、時間までに材料を集めることとした。

火薬は船などから集めた分がいくつかある。火口や火種は作るのにそう時間もかかるまい。
となれば、紙――火薬を詰めるための玉皮や、外側に重ねる玉貼りの為のもの――を中心として作るのがよいだろう。

焚火と向き合いつつ、草木で灰を作り、溶かし、乾燥させ紙としたものを、型に成形する。
地道な作業だ。だが、こうした手作業に注力している時間は心地よいとも感じられる。
そうでもなければ、絡繰の作り方など覚えんだろう、と自答した。

しばし紙作りをしていたら、ロクロ殿と箱の子が近くへやってきた。
箱の子は焚火の世話を手伝ってもらい、ロクロ殿は出来た材料を見て花火作りを試していた。
2人と話をしながら作業に打ち込む。穏やかな時間であった。



その少し前。
遺跡では多少なり雨水が汲めると聞いた為、花火作りに使う分を汲みに行ったのだが…その途中、洞穴にて黒ローブ姿の少年を見つけた。
以前は拠点の隅にいる姿が見られたが、少し前から姿が見えなくなっていた者だ。
隅で過ごす者、拠点に常駐はしていない者、喧騒から離れたい気分の者もいようから、それ自体は珍しいことではないのだが……戻ってくる気配がない故、少し気にはかかっていたのだ。

聞けば、この付近を通るであろう船に救助してもらう算段らしい。
島から脱出するという気持ちはあるようで安心した。

拠点の環境から離れてまで他の船に乗ろうとしている者を、止めるべきかどうかは分からない。
喧騒の輪に入ることを嫌う者もいる。引きずって連れてきたところで、他の者と馴染めるのか。
……直接話したのはこれが初だ。その人となりを掴むことも、考えを覆すのも容易ではないだろう。

己が斯様な心配をせずとも、彼は逞しくやれていそうでもあるのだが。