Eno.937 吟遊詩人の日記

『約束』

  

「…兄さんの気持ちはわかった。
 でも、約束してほしいことがあるの───」



絶対に、私を忘れないでほしい

「他の誰かには忘れられてもいい。
 でも、兄さんにだけは忘れられたくない」

「兄さんにとっての私がそうでなくても、
 私にとっての兄さんは、私のすべてだから…」


「…生まれた時から一緒にいる相手に忘れられるのは、つらい。
 そうなったらきっと、何で生きてきたのかもわからなくなる
…」




そこまで聞いた彼は、優しい手付きで私の頭を撫でた。


『あぁ、約束しよう。忘れない

『…そうだ、僕の楽器を預けるよ。
 その代わり、君の楽器を僕に貸してくれ。
 お互いの物があればきっと、いつだって忘れずにいられるさ』


『…心配しなくても大丈夫。
 いつか必ず、×××××の元へ帰るから……』





───それが、彼と私が交わした最後の約束だった。



その数日後に彼は旅立って、
私は一人、自分達の住処に残った。
時折来る連絡を、心待ちにしながら。