Eno.1014 漢升の日記

7日目①

現在曇り。海面の上昇が著しい、あと一日でこの島は沈むのであろう。とはいえ救助船も来ているゆえ、安心でござるな。ウリオール殿から脱出キットも貰ったゆえ、どちらを選んでもよい。拙者は折角作ってもらったゆえ、そちらを選ぶが。

そういうことで、あと1日をしっかり暮らしていくことにするでござる。森林に赴き、探索と罠の確認ついでに狩りを致した。実は拙者、元の世界ではクロスボウの名手、にて。見事ウサギを射抜いて持ち帰ったのでござる。……作ったクロスボウは人間用で、拙者の手には少々小さいのだが。



その後、司書殿から大事なものを預かったでござる。前に言っていた「熱くもなく、燃え移りもしない炎」。花と夕暮れの日だけで作られたというそれは、確かに拙者が触れられるものであった。

しかしそれは裏を返せば、湯の一つも沸かせず、火を移して他の者が恩恵を受けることもできない、と同義であった。炎から特性を奪えば、利点も欠点も同時に消える、ということでござる。つまりこれを持ち帰ったところで、拙者達が炎の力を、黎明の火を手にすることはできない。

……だが、それがそこにあるというだけで意味がある。拙者はそう信じている。この炎から始めて慣れていく、というようなことも、或いはできるかもしれない。そして、本当に炎を克服したその時には、逆にこの炎は不要になる。少なくともそれまでは克服すべき象徴として大切にしよう。きっとこの炎の戒めを解く日は来ないであろう。現状、普通の炎に戻せば拙者でも扱えないゆえな。

戒めを解かずとも、これは消えることなく、文明の明るさをネストに齎す。地下で暮らす人間達にも、少しは安らぎとなるだろうか?