Eno.937 吟遊詩人の日記

『もう一つの旅立ち』

 
待ち続ける日々も、そう長くは続かなかった。

定期的に来ていた彼からの連絡は徐々にその頻度を減らし、終いには来なくなってしまっていた。

私は言いようもない不安を抱きながら彼を待ち続けた。
……やがて、我慢が出来なくなる日まで。



(もうずっと便りが来ない、どうして?)

(ひょっとして、何かあった…?)

(何かに巻き込まれていたらどうしよう、
 もし酷い怪我をしていたら………)



様々な可能性が頭を過る。


(…………、それとも)


(やっぱり、私のことなんて…忘れちゃったのかな)




それは一番、考えたくなかったこと。
けれど浮かんでしまえば、もう消し去ることはできない。




(…会いに、行くべきなのかな)

(待っていてと言われたけれど……)

(でももう、ヒトの一生くらいの時間は経った。
 私だってもう子供じゃない…、魔法も兄さんより使える……)




ぐるぐると考える。
引き続きここで待つか、自分から会いに行くか。

きっと彼は、私がここで待つことを望むだろう。
でも、私は…。私は、早く彼に会いたい。
会って無事を確かめたい。話がしたい。
また一緒に、日々を過ごしたい。






──散々考えた末に、天秤は、“会いに行く”方に傾いた。






そうと決まれば話は早い。さっそく旅支度だ。
旅をするにあたって必要そうなものと、彼から預かった楽器ライアーを手に取る。

それは今や一番大切で、私達二人を繋いでくれるモノ。
どんなに離れていたって、私が迷ったって、きっとこれが導いてくれる。

そう信じて、私は住処を出た。
誰にも届かない、小さな「いってきます」を残して。